江戸の人々がこよなく愛した美学を未来に引き継ぐ
文京区水道に、江戸時代から約160年間、木版画を摺り続ける工房がある。「高橋工房」だ。
創業は安政年間(1854~1860年間)。江戸木版画の「摺師」を代々担ってきた高橋家は、4代目から「版元」の暖簾も兼ねている。
「木版画の仕事は、日本の印刷のルーツです。寺子屋の教科書から浮世絵版画、包装紙に到るまで、木版画の技術が支えていました」と、6代目の高橋由貴子氏は語る。
浮世絵版画は、江戸文化に欠かせないものだった。というのも、江戸時代には浮世絵版画こそが、情報誌としての役割を果たしていたからだ。たとえば美人画にしても、指物による調度品や着物の柄、髪型、手に持ったうちわと、細部に至るまで、当時の流行の最先端が描き込まれている。その美術的価値は、今や広く認められるところだ。
「浮世絵版画は、世界に通用する伝統工芸の代表選手。絶やすわけにはいきません。かといってそれだけに固執しても、文化を守り育てることにはならないのです」と高橋氏。
現在「高橋工房」では、伝統の浮世絵はもちろんのこと、現代アートやウルトラマンに到るまで、多岐にわたる題材を作品にして摺りあげている。
そのほか、美術展のグッズを手がけたり、さらには、美術館や学校で、職人によるレクチャー、デモンストレーション、ワークショップを行うことも。歴史と技を伝え、体験してもらうことで、江戸木版画の文化を生活に生かしてもらうのだ。
「それでも、一番の基本は浮世絵版画。この豊かな伝統文化を生かしながら、時代の風を五感で受け止め、体の中に入れて、今のライフスタイルにあったものを提案していきたい」
最近ではパリやロンドンからも、オファーを受けているという。