江戸の粋とモダンさをまとった、現代の雛人形江戸の粋とモダンさをまとった、現代の雛人形

江戸の粋とモダンさをまとった、現代の雛人形

真っ白でシンプルなかたちが目を引く、オブジェのようなお雛様。従来のきらびやかな雛人形とは一線を画すモダンな佇まいは、現代のインテリアにもしっくり馴染む。伝統的工芸品の節句人形を手掛ける松崎人形が、節句をリデザインするというプロジェクトとして取り組み、今年2月末にお披露目された。

「昔と比べてライフスタイルはすいぶん変わっていますから、令和の現代にもマッチする“これからの時代のお雛様”をつくりたいと思いました」と、社長の松崎光正さんは語る。プロダクトブランド「Studio GALA」を主宰する小林良一さんのサポートを得て、プロジェクトは1年前にスタート。現代のミニマルな生活に沿うよう、できるだけシンプルに削ぎ落としていこうと話し合った。

最初のうちは、差し色を入れたり目や口を描いたりと、なかなかこれまでの人形づくりの感覚を捨てきれなかったという松崎さん。既成概念を少しずつ取り払っていった結果、白一色で簡潔なフォルムの完成形に辿り着いた。顔部分は、わずかに鼻の形があるのみ。

「立ち雛、座り雛の2種類をつくりましたが、とりわけ立ち雛は四角と三角を組み合わせたような大胆な形。ここまで削ぎ落としていいのかと自問しながらも、彫刻的なオブジェとしての美しさがあってもいいのではと考えました」

江戸の粋とモダンさをまとった、現代の雛人形

雛人形に使われているのは、木目込みと呼ばれる伝統的な人形づくりの手法。型抜きしてつくった胴体の木地に溝を彫り、そこに布地を入れ込み糊付けして仕上げるため、木地のフォルムが生きる。シンプルな形の中に、松崎人形らしい「江戸の粋」も盛り込んだ。遠目には真っ白に見えるが、実は何種類もの白布が使われている。これは、「四十八茶百鼠」という江戸の文化を取り入れたもの。贅沢を禁じられた江戸の人々が、素材や染めの違いで膨大な茶色や鼠色を創り出して楽しんだように、表情の異なる白の布地を組み合わせた。座り雛に配された矢来紋は、さまざまな白の表情が楽しめる意匠になっていることに加え、古くから魔除けの意味ももつ。これは、雛人形のルーツである、厄災を払い子どもの健やかな成長を願う意味合いともリンクしている。

「お子様の初節句だけでなく、大人の女性がご自分用にお雛様を楽しんでもらえたらうれしい」と語る松崎さん。桃の花や雛あられといっしょに飾るのもよし、人形だけをさり気なくインテリアに溶け込ませるのもよし。十人十色の楽しみ方ができそうな、新時代の雛人形の誕生だ。

江戸の粋とモダンさをまとった、現代の雛人形