フランス国際見本市で、東京が誇る江戸の粋を発信!フランス国際見本市で、東京が誇る江戸の粋を発信!

フランス国際見本市で、東京が誇る江戸の粋を発信!

古くは江戸の昔から受け継がれてきた老舗の匠の技に現代の感性を加え、新たな東京ブランドとして広く発信していく――。「江戸東京きらりプロジェクト」のこうしたビジョンを世界にアピールする格好の場となったのが、今年1月にパリで開催されたフランス国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」。世界中のインテリア&デザインの業界関係者が集まるこのトレードショーにブース出展し、12の事業者が商品を展示。うち6事業者は、パリを拠点に活躍するデザイナーとの共同開発商品を発表した。
このコラボレーションは、2021年に小池都知事とパリ市イダルゴ市長により発出された共同宣言に基づく、両市の連携事業のひとつ。江戸東京きらりのモデル事業者が、パリ市のデザイン産業インキュベーション施設「アトリエ・ド・パリ」に所属するデザイナーとの共同制作を実施することで、よりグローバルマーケットに訴求する商品づくりを行おうという目的もある。今回は3組のデザイナーが、それぞれ2業者とのコラボレーションを行った。

2023年6月の初顔合わせに始まり、商品開発ミーティングはすべてオンラインで進行。10月にデザイナーが来日して試作品を確認し、微調整を行ってから商品を完成させるというプロセスを辿った。普段とは異なる仕事の進め方は、事業者にとってもデザイナーにとっても、苦労を伴った以上に刺激や発見も大きかったようだ。それぞれの共同制作プロジェクトの詳細を、順に紹介しよう。

●伊場仙 
400年以上の歴史を誇る、団扇と扇子の老舗「伊場仙」。近年の温暖化でヨーロッパでも需要が増えている扇子の新商品として、十二支のデザインをリクエストした。デザイナーのジャック・アヴェルナは、「フランスでは赤ちゃんが生まれた際に贈り物をする習慣があり、生まれ年の動物を象った扇子はとてもユニークで意義深いと思う」と快諾。折り目のついた扇面にデザインを施すのは大変だったというが、幾度も修正を重ね、アヴェルナの持ち味であるポップでカラフルなイラストが扇面いっぱいに施された商品が完成した。骨が太く折り幅の広い伝統の江戸扇子の形を継承しつつ、扇を開くとモダンで大胆な柄が現れる――。江戸っ子たちが重んじた洒落や粋が、現代に活きた作品となった。

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●江戸組子 建松
主に建具で使われてきた組子の技を活かし、さまざまな製品づくりを行っている「江戸組子 建松」。デザイナーのネルソン・フォッシーと話し合い、今回の商品は鏡に決定した。「組子を建築の要素ではなく、オブジェとして創造したい」というフォッシーが提案したのは、四角いフレームに菱形の組子と丸い鏡の組み合わせというミニマムなデザイン。鏡は太陽や月を、組子細工は空を舞う鳥の群れを抽象的に表現したと聞き、建松側は「職人には思い浮かばない新鮮な提案でした」と刺激を受けたという。制作時には、鏡の重量が組子にほとんど掛からない仕様を工夫し、秋田杉の中に灰色がかった神代杉をアクセントとして使用。日本はもちろん、世界の多様なインテリアに溶け込む商品を目指した。

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●華硝
職人の手仕事によるカットや磨きで、伝統の江戸切子を今に伝える「華硝」は、ネルソン・フォッシーとのコラボレーションで、ウイスキーグラスの制作に取り組んだ。「江戸切子の特徴である1mm弱の薄さの色被せガラスに、どれだけのディテールを作り出すことができるかを理解するのは大変でした」というデザイナーと対話を重ねつつ、「フォッシーさんの得意とする幾何学的なモチーフを、江戸切子の技とデザインでどう表現するかに注力しました」と語る華硝。試作を重ねた末、ウイスキー作りに使われる水を思わせる数々のパターンの中から、水が流れるようなモチーフを選択。澄んだブルーに緩やかな曲線が連続するカットが施されている、シンプルで洗練されたグラスが生まれた。

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●木本硝子
職人と顧客をつなぐガラス問屋として、近年は日本酒を飲む多彩なシーンに合わせたグラスの提案を行う「木本硝子」。日本酒をデイリーに、かつフランス人の感性を活かしてスタイリッシュに愉しむための酒器として、デザインユニットのAC/ALとコラボした。7つもの豊かなデザインアイデアの中から、量産することも頭に入れ、最終的にフランスの円錐形の貯水塔をイメージしたものに決定。グラスもカラフェも本体は薄く、底面のみ極めて厚くすることで、底面に集光されたきらめきの美しさや、手にもった時の重みがもたらす酒器の存在感を伝えることを目指した。「フランスのトップデザイナーの自由で新しい発想と東京が誇る江戸硝子の技が交わり、素晴らしいケミストリーが生まれました」

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●竺仙
江戸っ子たちに愛され続けてきた浴衣の老舗「竺仙」は、伝統の柄を染めた生地をガラスに挟み込んでつくる新製品の開発をAC/ALに依頼。さまざまな提案の中から、日常に取り入れやすいトレイを商品化することになった。「シンプルで時代を超えた機能的なオブジェを通して、竺仙の製品にスポットライトを当てたい」と意図したデザイナーは、緩くカーブしたガラスのトレイに万寿菊や萩柄の生地を挟み、木製の台座に乗せるタイプと木の取っ手を嵌めたタイプの2型をデザイン。伝統柄の美しさが引き立つトレイが誕生した。「弊社が脈々と受け継いできたパターンに共鳴していただき、AC/ALのおふたりの創造性と融合したプロダクトとなったのは、まさに“Old meets new”だと感じます」

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●丸久商店
日本独自の型染め技法である「注染」を用いた浴衣や手ぬぐいなどを企画販売する「丸久商店」にとって、フランス人デザイナーとの協働は、「ふだんの発想や商品づくりが和の文化に寄りがちなので、異文化の視点でのリデザインは斬新な発見があります」。今回は、ジャック・アヴェルナのユーモラスな個性が表現されたグラフィックを注染で染め上げた、アートパネルの制作にチャレンジ。ペンダントから放たれる光や花を活けた花瓶など、日常を切り取った6種のデザインを、それぞれ左右対称に2分割して表現した。さらに、伝統的な綿入り布団の技術を用いて仕上げたことで生地にボリューム感が生まれ、壁に掛けた時のインパクトは絶大。ユニークなアート作品として、国内外の反響が期待される。

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それぞれのコラボレーションで生まれた新商品は、出展された「メゾン・エ・オブジェ」で評判を呼んだ。1月18日から22日までの5日間の会期中、江戸東京きらりのブースはたくさんの来場者で賑わい、「斬新なデザインで面白い」「商品を生み出す匠の技術や伝統に感銘を受けた」など、多くの関心が寄せられた。今回の出展は、“江戸の粋が香る東京の宝”を世界に向けて発信する、大きな一歩となったに違いない。

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