余白がもたらす、インテリアアートとしての書の魅力
2024.03.22
LIFE「日本人はどうして自分の部屋に日本のものを飾らないの?」
この問いかけが創立のきっかけだったと語るのは、キャレモジマネージャーの高橋さんと店長の吉野さん。創立者の植野文隆さんの友人であるアメリカ人が日本に駐在した際、部屋に書を飾ろうと思って植野さんと一緒に全国を探し回ったが、古風な掛軸や墨蹟が少数見つかっただけで部屋に飾りたいと思えるものはなく、友人から不思議そうに言われた言葉だ。自身も書道をたしなんできただけにハッとさせられた植野さんは、「伝統の書道にモダンな感性を加えて、現代の空間に合うインテリアアートとしての書をつくろう」と、2002年にキャレモジを立ち上げた。
「私たちが一番大切にしている要素は、長年の研鑽から生まれる“奥深い書線”と、“高いデザイン感性”。そのふたつを兼ね備えたアーティストともいえる書家には、なかなか出会えません」と吉野さん。創立当時から書家を探し続け、20年余りで見つけられたのは13名。「長く楽しめるインテリアとして、作品が目立つことより飾る方の心の充足感を重視するという私たちのコンセプトを理解してくださっている先生ばかりです。コンセプトを具現化する際に大切なのは、日本の伝統的な美意識でもある“余白”。余白を最大限に活かして表現することで、作品を見る人の心の中に美しい情景や風景が広がっていく。忙しい現代人に心の余白が生まれ、住空間が心地よく満たされることが私たちの願いです」
こうしたキャレモジの活動が広がる中で支持が高まっているのが、空間に合わせた書の作品を提案するコーディネートサービス。ホテルやレストラン、企業などからの依頼で、ヒアリングをもとに一から創るオーダーメイドのケースがほとんどだ。たとえば、アマン東京からは「和と自然と現代性を融合した洗練された空間で、宿泊客のおもてなしにふさわしい作品を」という依頼を受けて、文字の発案から納品までを手掛けた。
「私たちは、作品が活きるように額装デザインも大切にしています。アマン東京の客室は、和紙の壁紙で覆われたシンプルな空間だったので、作品はあえてむき出しのパネル貼りにしました」と、高橋さんは語る。作品は宿泊客からも好評で、自宅でも飾りたいという注文も少なくない。「国内外を問わず、『日本のテイストを感じさせつつモダンな空間にも合う、こんな作品を探していた!』という声をいただくとうれしいですね」
創立から20年以上経ち、最近では商業空間で書のアートを見かける機会も増えている。
「私たちがパイオニアになれたのかなと思ういっぽう、個人の住空間で書を飾るという意識はまだまだ浸透していないと感じます。創立当初から目指してきた、『書を世界のスタンダードなインテリアアートにして、多くの人に墨の風景が広がる空間の心地よさを感じてほしい』という思いを絶やすことなく、今後も発信を続けていきたいです」