組紐の可能性は無限大
いま日常の中で、私たちの目にもっともふれやすい組紐は和装の着姿の際に結ぶ、帯締めであろう。染め上げた糸を相互に交差させてつくり上げていく組紐。組紐を通して1400年ほどの歴史をひもとくと、奈良・正倉院の宝物が伝える経帙の緒や、厳島神社に残る平家納経の紐、鎌倉時代の鎧や刀剣の下げ緒などに由来していることがわかる。その組紐は、時空を超えて現代にも生きているのだ。
龍工房は、組紐にあった糸づくりに始まり、染色・デザイン・組みまでを一貫して行う都内で唯一の工房だ。工房を支えるのは、東京都伝統工芸士に認定されている当主・福田隆氏と、その息子である福田隆太氏。確かな技術は、父から子に着実に受け継がれている。
龍工房の創業は1963年であるが、それ以前の130余年も前から本物の組紐づくりを続けてきた。そのモノづくりへの信頼は厚く、多くの茶道家や歌舞伎役者、そして品格を重んじる皇族からも愛されている。
組紐は、丸台・綾竹台・高台・角台といった独特の専用台を用いてつくられる。美しく染め上げた絹糸を、職人が何十通りもの一定の法則を駆使して手際よく組み上げていく。良質な組紐は適度に伸縮性があり、結びやすくほどけにくい。それを実現するためには、絶妙な力加減で組紐を組む、熟練の職人の技、そして集中力が必要になる。そのため複雑な柄の組紐になると、1時間で数センチし組むことができないものもあるという。
近年、龍工房では、これからを担う息子の隆太氏が中心となり、伝統の技術とノウハウをもって組紐を進化させた商品開発を積極的に行なっている。モダンにアップデートしたデザインの組紐は、和装だけではなく洋装でも楽しめる逸品だ。ブレスレットなど普段から身に着けているものを昇華させたファッション的なアプローチである。また組紐を活かして「用と美」を兼ね備えた傘のプロデュースも、いま注目を浴びている 。自由自在に色やカタチをアレンジできる組紐の可能性は、まさに無限大。先代から脈々と受け継がれてきた組紐の技術は、これからもカタチを変えて進化していく。