かつて幻の技術と言われた伝統技術を、ジュエリーに活用
色の異なる金属を重ね合わせてつくられる、美しい木目模様。職人の手作りのため金属の組み合わせによって異なる表情が生まれ、世界にひとつだけのブライダルリングとなる。400年前から伝わる伝統の技を現代のジュエリーに活かしているのが渋谷に自社工房を構える「杢目金屋(もくめがねや)」だ。
「木目金」とは、江戸時代に生まれた日本発祥の特殊な金属加工技術。鐔(つば)などの刀装具に重宝され、幕末にはキセルや茶道具にも使われるようになったが、明治に入り廃刀令が出されたことで一時は技術が途絶えてしまった。その技術に魅入られた制作者たちによってかろうじて伝承されていたが、「日本が誇るこの技術を埋もれさせてはいけない。現代でも輝く存在にして後世に残していきたい」という思いでジュエリーブランドを立ち上げたのが、杢目金屋の代表を務める髙橋正樹氏だ。2003年の会社設立以来、ブライダルリングのオーダーメイド専門店として、伝統技術に新たな価値を加えた商品を生み出し続けている。
杢目金屋の指輪は、素材となる金属の板の「木目金」をつくることから始まる。全7種類の金属の中から客がチョイスしたものを重ね合わせ、鍛え、ひねり、打ち伸ばすことで、独特の木目模様が出来上がっていく。金属の組み合わせによって表情はさまざま。たとえば、「紅ひとすじ」という結婚指輪は、深いグレーのホワイトゴールドと明るい白色のシルバーのコントラストに、桜色のピンクゴールドがアクセントになった人気商品だ。同じ金属の組み合わせでも模様の出具合はその時により異なってくるため、まさに唯一無二の指輪が出来上がる。
伝統的な木目金模様の研究を続ける傍ら、ユーザー参加型の革新的な商品開発にも積極的だ。ひとつの木目模様の指輪からつくる結婚指輪「つながるカタチ」は、ふたつに分ける過程で一部をつながったまま残し、カップルの手で分かち合って完成させるというもの。分かち合った体験が記憶となり、つながっていた痕跡を残したまま仕上げられるため、いつまでもふたりの絆を感じさせてくれると好評だ。
「こうした新たな取り組みを通して技術を発展的に継承し、今後はメイドイン東京ブランドとして海外にも発信していきたいですね」