明治期からの型染めを、“新江戸染”としてブランド化。
鮮やかな柄を染め抜いた浴衣や手ぬぐいが、人々の暮らしの定番となった明治時代。バリエーション豊かな布が数多く出回るようになった背景には、「注染(ちゅうせん)」と呼ばれる日本独自の型染め技法の誕生がある。江戸っ子に愛された注染の品々を、今も変わらず取りそろえている問屋が、明治32年(1899年)に日本橋で創業した丸久商店だ。
注染の工程は、型紙を使って反物の生地に防染糊を付けるところから始まる。糊が付いた部分は、染料が染み込まないので色が付かない。終わったら型をはずし、生地を折り曲げて新しい面を上に重ね、再び型紙を置いて糊付けする。これを繰り返して20〜40枚ぶんの層になったら、色分けしたい部分に糊を盛り上げて土手をつくる。その後、じょうろ状の薬缶で土手の中に絵柄に応じた染料を注ぎ込み、生地の下から真空ポンプで吸引して一気に染料を通す。生地を裏返して同様の作業を繰り返すため、注染の生地は表裏のないくっきりとした染め上がりになるのが特徴だ。
誕生当時は初めて量産が可能になった画期的な技法だったが、現在の機械によるプリント染色の大量生産品とは違い、各工程はすべて職人による手作業。そのため一点一点の表情に違いがあり、手仕事ならではの味わい深さが魅力となっている。繊細なぼかしやにじみの表現が可能なのも、熟練の職人技ならではだ。
こうした伝統の技法を大切にし、「新江戸染」の屋号で、浴衣や手ぬぐいをはじめ多彩な製品の企画販売を手がける丸久商店。これまで生み出してきた膨大な数の型紙から図案を復刻したり、新たな柄を考案したりと、懐かしさを感じさせつつ現代の暮らしに馴染む提案を行っている。染色作家や織職人、染工場などと協働し、注染というひとつの文化を発信するモノづくりを続けていくことが信条だ。