古典柄の浴衣に、色や素材使いで新たな命を吹き込む。

古典柄の浴衣に、色や素材使いで新たな命を吹き込む。

かつては、白地の藍染めか紺地が定番だった浴衣。時代と共に色柄は豊富になり、夏のイベントだけでなく日常の外出着へと着用シーンも広がってきた。丸久商店は、明治時代の創業以来、人々の暮らしに寄り添う浴衣や手拭いを中心に取り揃えてきた卸問屋だ。「注染」という日本独自の型染め技法を使った商品にこだわり、近年では昔の図案の復刻や新たな柄の考案など、注染の魅力を幅広く伝えるものづくりを積極的に行っている。
「浴衣は毎年、30前後の柄を発表。基本的に定番品はつくらず、時代のニーズを採り入れた生地をお届けしています」と、五代目の斉藤美紗子さんは語る。今年の新作のひとつが、「横段牡丹」という柄の綿麻生地。普段は綿100%の生地を扱うことが多いが、昨今のリネン人気も考慮し、滋賀の匠が織る「新之助上布」を用いたシリーズをつくり始めて3年になる。
「柔らかな肌触りと麻らしいハリを兼ね備えた、とても着心地のいい生地です。麻の割合が55%もあり、注染の工程では縮みやすく扱いにくいのですが、今年は注染作家の関澤孝さんにお願いし、細やかな牡丹柄をていねいな仕事で美しく仕上げていただきました」
 色展開は、墨色・銀鼠色・孔雀色の3色。いずれもシックな色味で、ハリのある生地の質感と相まって、真夏以外も大人の女性の着こなしを満喫できそうだ。近年は、日本の気候が温暖化していることもあり、5月中旬から9月上旬くらいまで浴衣を活用したいという要望も増えているという。今回の新作も、いかにも浴衣といった印象のない、着物に通じる落ち着いた趣の生地が多い。

古典柄の浴衣に、色や素材使いで新たな命を吹き込む。
古典柄の浴衣に、色や素材使いで新たな命を吹き込む。

蝋を使い防染を施し染められる「蝋纈ゆかた」。蝋のヒビが模様としても染まり、独特な模様を醸し出す。

数年ぶりの発表だという「臈纈(ろうけつ)浴衣」は、防染に使われる蝋のひび割れが醸す繊細な表情が味わい深い。画家・小村雪岱の作風を想起してつくられた「五月雨傘」は、連なる傘の柄と縞柄を2度染めして仕上げた、江戸の粋を感じさせる生地だ。
「古典柄をお洒落な浴衣として楽しめるというお言葉をいただけると、何よりうれしいです。今後も注染の魅力を多くの人に知っていただけるよう、浴衣を始め、さまざまな“まとう形”を提案していけたらと思っています」

古典柄の浴衣に、色や素材使いで新たな命を吹き込む。