「伝統」と「新しい価値」の発掘は続く「伝統」と「新しい価値」の発掘は続く

「伝統」と「新しい価値」の発掘は続く

「伝統」と「新しい価値」の発掘は続く

明治32(1899)年創業の注染製品の問屋・丸久商店。

手ぬぐいや浴衣などに用いられてきた「注染」は、数十枚の生地を一度に染めることが可能な日本独自の染色技術であり、江戸末期にはすでに存在していたともいわれている。

丸久商店は、生地屋、型屋、染屋などをつなぐ問屋としての役割だけでなく、独自に柄をデザインしたりと「企画」の部分も担ってきたと伝わっているが、実は当時の商いの詳細を記した資料はほとんど残っていない。1923(大正12)年に発生した関東大震災等の災害で焼失してしまったからだ。

それでも、5代目の斉藤美紗子氏と山内昂氏は、当時のメモ、わずかに残った昭和20年〜30年代の染め見本や、古書街で見つけた自社の図案集などを頼りに、一度断絶した歴史を拾い集めてきた。

「伝統」と「新しい価値」の発掘は続く
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また、ともに東京藝術大学出身の2人は、伝統の継承に加えて、2022年にファクトリーブランド「TEWSEN」を立ち上げるなど、注染の新しい価値の発掘にも努めている。

注染では、それぞれの工程を専門の職人が分業する形で担っている。

均等に巻き取られた和晒生地に対して、板場(糊置き)の職人が柄ごとに固さを調整した「防染糊」を塗布。防染糊は文字通り、色が入るのを防ぐマスキングの役割を果たす。

その後は「注染」という呼び名の由来でもある「ヤカン」を使って染料を注いでいく作業が続く。同時に複数の色を差せるのも注染ならではの特徴であり、魅力の1つといえるだろう。真空ポンプを活用し、色を浸透させることで染め上がった生地は、防染糊を落とすための「洗い」という工程を経て、乾燥させたあと、「仕上げ」へと移っていく。

完成した製品には、手工業ならではの「にじみ」「ゆらぎ」「ぼかし」が表れており、日本の芸事や祭りに彩りを添えてきた。

「伝統」と「新しい価値」の発掘は続く

今回、舘鼻則孝氏がコラボレーション作品の柄として選んだものの1つは、日本舞踊の長唄「雨の五郎」にまつわる「五郎蝶」。舘鼻氏が「雷雲」のモチーフを描き足すことで完成した作品は、唐門近くの高台にある「富士見堂」に設置された。時折吹く春風も心地よく、青い空の中を蝶が舞っているようにも感じられた。

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もう1つは、遊郭の吉原に由来する「吉原くずし」と舘鼻氏独自のモチーフである「雲と雷」を配した作品。図案と図案の間を区切りすぎずに、つながりをもたせたり、奥行きを意識したディスプレイとすることで、絵画では表現できない空気感が漂う展示となったと、舘鼻氏は振り返る。

「手ぬぐいといった『使うもの』に用いられる注染が、鑑賞することを目的とした作品の一部となって展示されるのは、私たちにとっては初めてのことで新鮮でした。今回の江戸東京きらりプロジェクトもそうですが、これからも国内外のさまざまな方のお知恵をお借りしながら、新しい注染の形を模索していきたいと考えています」(斉藤氏)

「今回のコラボレーション作品制作にあたっては、職人の方には、限界へのチャレンジと言ってもいいくらいに、いつも以上に手間暇をかけていただきました。結果、注染の技術の粋を集めたような作品が完成したことで、注染の表現の幅が確実に広がったことを実感しています」(山内氏)

斉藤氏が家業を継ぐと決めてから約10年。2人のチャレンジは始まったばかりだ。

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Photo by GION

Special Movie
現代美術家 舘鼻則孝 × 新江戸染 丸久商店


「伝統」と「新しい価値」の発掘は続く

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