日本酒の価値を高める木本硝子の日本酒グラス
2024.08.30
LIFEガラス食器のプロデューサーとして、国内外のクリエイターとチームを組み、ガラスの新しい世界観を生み出している木本硝子。「ワインのように、酒の味や香りによってグラスを変える」という発想から、近年特に力を入れている日本酒グラスでは、すでに130種類を超えるデザインを世に送り出し、20か国以上で販売されています。
そんな木本硝子の日本酒グラスに、この夏、新たなラインナップが加わりました。それが、フランス人デザイナーユニットが手がけた「SENS(サンス)」。フランス語で「意味あるもの」という名を持つこのグラスの特徴は、その独特の形状にあります。着想の源は、なんとフランスの給水塔だそう。水は、日本酒にとっても重要な要素のひとつです。
さらに目を引くのが、分厚い底の部分。持ち上げると、グラスとは思えないほど手にずっしりと沈みます。この重みを感じながら日本酒を口に運ぶと、味をより濃密に感じたり、コクを感じられたりするのだとか。そこで、このグラスには生酛(きもと)造りや山廃仕込みなど、しっかりとした味わいの酒が合う、と企画を担当した営業部の青木美穂さんは説明します。あるいは反対に、すっきりとした辛口を飲んでも普段と違った味わいを楽しめて面白いそうです。
同じくフランス人のデザイナーが手がけた「Ryote」も、底はやや厚くなっています。実は、海外のデザイナーたちが東京のガラス工房に見学に訪れた際、そこで作られるガラスの透明度の高さに感動することが多々あるといいます。つまりこれは、職人の高い技術力と妥協しない素材選びによって生み出される透明なガラスの美しさを表現するための厚底なのです。
「Ryote」というネーミングは日本語の「両手」から。きれいな泉から水をすくって飲む際の手の形が、このグラスの形状につながっています。また、日本酒をグラス半分ほど注いだときに美しくなるシルエットに調整されているそう。こうした口径の広いグラスでは、日本酒のうまみが口全体に広がる効果があることから、やはり山廃や生酛がおすすめとのことです。
それに対して、すっきりとした吟醸酒に向いているのが、別のフランス人デザイナーチームによる「OPTICA」。カメラマンとしても活躍するデザイナーが、光学レンズの形状にヒントを得てデザインしたそう。飲み口の部分が広がっていることで、グラスを傾けた際にお酒がするすると口の中に入り、味が舌全体に広がります。それにより、吟醸ならではの米の旨みをガツンと感じられるようになっているのです。
酒のタイプによってふさわしいグラスを使うという考えは、飲食店だけでなく、酒蔵にも浸透しつつあります。最近では、自社の酒を持って木本硝子のショールームを訪れる酒蔵もあるそう。そこで数々のグラスで試飲して、自分たちが造る酒の味を最も的確に表現できるグラスを探すのだそうです。
また木本硝子では、料理と飲み物の「ペアリング(マリアージュ)」に器を加えた「トリプリング」を提唱しています。酒の種類だけでなく、その味や香り、さらには料理との相性によってもグラスを変えることで、より高い価値を提供し、さらに上質なおもてなしにつなげようという試みです。料理×酒×器のかけ算が、まだ誰も知らない味を生み出すのかもしれません。
日本酒はいまや、世界で愛される酒。ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」とともに、今後一層の普及が期待されています。その中で、木本硝子が提供する日本酒グラスは、酒本来の味と香りを表現する役割を果たすと同時に、日本のガラス製造技術の高さを世界に伝え、そうして、江戸のガラスづくりの伝統を守ることにもつながっていくでしょう。