展覧会ディレクター 舘鼻則孝
2022.03.24
LIFE「現代アート × 江戸東京の伝統産業」 日本古来の伝統文化をみなおし、未来に向けて何を表現すべきか
展覧会ディレクターを務める現代美術家・舘鼻則孝氏と江戸東京の伝統産業事業者によるコラボレーション作品は、継承され続ける巧みの技や長い歴史の中で培われた知恵や知識など、さまざまな要素を今の私たちに伝えています。作品を通して作家と伝統産業事業者の「リシンク」を追体験することができるでしょう。
現代美術家 舘鼻則孝 × 和太鼓 宮本卯之助商店(わだいこ・みやもとうのすけしょうてん)
雷鳴を神仏の来臨に擬えて、雷神の持つ雷鼓を表した作品。玩具太鼓と呼ばれる4.5寸の小さな太鼓を連結し制作された。宮本卯之助商店の職人が制作した太鼓を円形に繋ぎ、現代美術家・舘鼻則孝氏のアトリエで彩色を施して完成させた。
本作に使用されている太鼓は、皮を張る前、乾燥させる工程で歪んでしまったり、割れてしまったことで、製品にすることが叶わなかった昭和50年代のもの。そのため、特に長胴太鼓の作品は、制作工程途中の荒々しい表情がそのままに作品化されることになった。
現代美術家 舘鼻則孝 × 江戸切子 華硝(えどきりこ・はなしょう)
今回のコラボレーション作品で用いられた紋様「米つなぎ」は、五穀豊穣への祈りを込めて、繁栄の象徴である稲穂に実る米をモチーフとしている。米つなぎのカットは、視覚的な効果に優れ、素材としてのガラスを熟知している華硝ならではの紋様だ。
雷の光が稲穂を実らせると信仰されていたことから「稲妻」と呼ばれているという話もあり、作品のモチーフである「稲妻」と「米つなぎ」には親和性がある。9枚のガラスプレートを並べて図案を見せている本作は、透明な箇所と背景に彩色をした箇所が存在し、カットされたガラスの反射を活かしたものとなっている。
現代美術家 舘鼻則孝 × 小町紅 伊勢半本店(こまちべに・いせはんほんてん)
舘鼻則孝氏の代表作《Heel-less Shoes》は、花魁の高下駄から着想を得た作品です。中でも本作は、最も背の高いモデルとなっており、全長は50センチ以上もある。コラボレーション作品に活用した紅は、染料として使用する際には「赤い色」をしているが、革に染めつけた後、表面が乾いていくと同時に「玉虫色」に発色。紅を革に染め付けるための下地の色味や染料の濃度など、幾度も試作を重ねたうえで、玉虫色に輝くヒールレスシューズが完成した。
現代美術家 舘鼻則孝 × 木目金 杢目金屋(もくめがね・もくめがねや)
今回のコラボレーション作品のヒールレスシューズでは、ファスナートップに木目金を配している。木目金にはモダンなデザインが入れられているだけでなく、江戸時代の刀の鐔にも取り入れられていた「透し彫り」が施されている。江戸時代の刀装具に使用された技術が、令和の時代に、ヒールレスシューズと一体となることで、木目金の400年の歴史に新たな1ページが加わったと言えるのではないだろうか。
現代美術家 舘鼻則孝 × 金唐紙研究所(きんからかみけんきゅうじょ)
本展では、特別協力という形で参画した金唐紙研究所が、旧岩崎邸庭園洋館2階客室の壁紙を再制作し、現代美術家の舘鼻則孝氏がそれを用いてヒールレスシューズを制作することになった。作品の上部には普段から舘鼻氏が使用しているエンボスのレザー、下側に金唐革紙を使用している。ヨーロッパからもたらされた金唐革の要素を汲み取ったエンボスレザーの表情と、和紙を用いた金唐革紙の表情のコントラストによって、作品が内包する歴史の厚みを感じ取ることができる。
現代美術家 舘鼻則孝 × 江戸木目込人形 松崎人形(えどきめこみにんぎょう・まつざきにんぎょう)
今回、現代美術家・舘鼻則孝氏のチームと松崎人形とが協働で、会場となる旧岩崎邸庭園で飾られていた「岩崎家の節句人形」の画像資料の復元彩色に挑んだ。モノクロ写真をもとに手彩色資料を制作した松崎光正氏のバトンを受け取った舘鼻氏のチームがデジタル彩色を施していく。節句人形の作り手として代々継承されてきた技術、歴史的知見を有する松崎人形の協力あってこその作品と言える。
現代美術家 舘鼻則孝 × 東京くみひも 龍工房(とうきょうくみひも・りゅうこうぼう)
本作のために新たに考案された組み方で組まれた「角紐」は、表と裏で色が異なっている。これは、着物の羽裏から着想を得たものであり、伊勢半本店の「紅」で染めたピンク色の絹糸を裏面に使用したことで、差し色としての効果を発揮している。また、60ミリのピッチで正確に「結び」を入れることで、テクスチャーに独特の表情を与え、「冠組(ゆるぎぐみ)」で組まれた飾り結びの部分との調和が生まれている。
現代美術家 舘鼻則孝 × 江戸木版画 高橋工房(えどもくはんが・たかはしこうぼう)
特殊摺りを用いた木版画と、疱瘡絵と呼ばれる赤い木版画の2種類のコラボレーション作品が制作された。それぞれの伝統技法を振り返ることで、現代印刷の原点とも言える江戸文化を再現した。顔料を使用しないエンボスの技法「空摺」。正面版を用いて和紙に光沢を与える技法「正面摺」。浮世絵師・東洲斎写楽、喜多川歌麿作品の背景にも用いられている「雲母(きら)摺り」。
疱瘡絵は、江戸時代に感染症への護符とされたもので、魔除けの意味を持つ赤い紅が顔料として用いられている。版画の背景には伊勢半本店の「細工紅」を使用し、江戸時代に実際に摺られていたであろう疱瘡絵の技術の復元に挑戦した。
江戸東京リシンク展 展覧会ディレクター
現代美術家 舘鼻則孝
1985年、東京都生まれ。東京藝術大学工芸科染織専攻卒。卒業制作として発表したヒールレスシューズは、花魁の高下駄から着想を得た作品として、レディー・ガガが愛用していることでも知られている。現在は現代美術家として、国内外の展覧会へ参加する他、伝統工芸士との創作活動にも精力的に取り組んでいる。作品は、ニューヨークのメトロポリタン美術館やロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館などに永久収蔵されている。
Photo by GION
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