伝統工芸をインテリアに。龍工房が仕掛ける組紐のさらなる進化伝統工芸をインテリアに。龍工房が仕掛ける組紐のさらなる進化

伝統工芸をインテリアに。龍工房が仕掛ける組紐のさらなる進化

130余年も前から「本物の組紐づくり」を続けてきた龍工房には、多くの茶道家や歌舞伎役者、そして皇族からも愛される確かな技術があります。その高い技術によって生み出される組紐は、今、和装の帯締めに留まらず、アクセサリーや小物、さらには内装やインテリアを彩るアートとして、街へと広がり始めています。

こうした新たな取り組みの中心となっているのは、龍工房の4代目当主で「現代の名工」にも選ばれた福田隆さんを父に持つ福田隆太さん。伝統的な美しさはもちろんのこと、アートワークとして見せる表現の組紐に大いに可能性を感じていると話します。

「伝統工芸品を制作する者にとって、技を追求して人間国宝を目指す道もありますが、それよりも私たちは、組紐の技術を伝承していくこと、その中に龍工房の看板を残す使命を持っています。そのためには、より多くの人に組紐を知っていただく必要があります。ヒット商品を生み出すことと同時に、内装やインテリアとして組紐は、その可能性を秘めていると感じています」

伝統工芸をインテリアに。龍工房が仕掛ける組紐のさらなる進化
千葉県野田市にある真光寺の護摩堂に設置された組紐パーテーション「雲龍」。黒く太い組紐には金糸も組み込まれ、上品な輝きを放つ。


きっかけとなったのは、フランスの有名老舗メゾンから、日本国内にある店舗の内装を依頼されたことでした。顧客の高い要望に応えられる先がなかなか見つからなかったところに、粘り強く取り組んで信頼を勝ち得たのが龍工房だったのだそうです。職人たちを総動員して組み上げたのは、一般的な帯締めの数倍もの太さで、なおかつ7メートル近い長さを持つ、まるで船を係留するロープのような純白の組紐550本。総重量は2トンにもなりました。

「組紐を内装やインテリアとして使うには、当然ながら、建築基準法や消防法などのルールにも従わなくてはいけません。そのためには、燃えにくい素材や火災予防に関する知識が不可欠ですし、それに見合った技術や技法も必要になります。ただ、そうしたことを学んで身につけたことは、龍工房としての仕事の幅を広げる足がかりになったと思います」

インテリアとしての組紐は、ただ美しいだけでなく、機能面においても優れています。たとえば組紐のパーテーションは、通気性や透過性の高さからコロナ禍で注目を集めましたが、「見せたいけれど、隠したい」といった防犯面でのニーズにも対応します。また、何本もの組紐をつなげて一枚の布のように組んだものは、織物と違って、表面と裏面とで異なる絵柄を作ることができるそうです。

伝統工芸をインテリアに。龍工房が仕掛ける組紐のさらなる進化
寝室など住宅で使われることを想定した組紐パーテーション「紗斜」(写真はアキュラホームが手がける戸建て住宅のモデルルームでの設置例)。


さらには、組紐は一本ずつ交換できることから、一度設置して終わりではなく、張り具合の調整など定期的なメンテナンスも可能。そうした修復などの仕事が増えることは、伝統技術の継承という観点からも大きな意義を持つでしょう。これらの取り組みは「進化の途中」だからこそやりがいがある、と福田さんは話します。

「新しい技術とのコラボレーションは、これまでの常識を塗り替えて、自分たちの価値を引き上げてくれるものだと実感しています。組紐で表現できることが、時代とともに進化していく。その先に、どこに行っても組紐があることが当たり前、という状態をつくることが私の願いです。長い道のりになるでしょうが、ぜひとも叶えたいですね」

この道の先駆者として、福田さん自身は、インテリアの中でも特に重要度が高くアートとの親和性もある照明器具に、組紐を取り入れることを模索しているそうです。また、個人宅での活用を普及させるべく、注文住宅メーカーとの共創を通じて、より生活に溶け込む作品づくりを行っていきたいと目を輝かせます。

伝統工芸をインテリアに。龍工房が仕掛ける組紐のさらなる進化
左:鏡を縛るという発想でフランス人デザイナーとのコラボした「MUSUBI MIRROR」。右:「いつの日か街を〝組紐まみれ〟にしたいんです」と笑う、龍工房の福田隆太さん。


糸づくりから染色、デザイン、そして組みまでを一貫して行ってきた龍工房だからこそ、伝統の組紐をインテリアに進化させるという挑戦を見事にこなし、組紐に新たな価値を創出することができたのでしょう。今は多くの実績を積み上げる時期であり「やり続けるしかない」と決意を固くする福田さんに、組紐の明るい未来が見えてきます。