展覧会ディレクターを務めた現代美術家・舘鼻則孝が「江戸東京リシンク展」を振り返る(前編)

展覧会ディレクターを務めた現代美術家・舘鼻則孝が「江戸東京リシンク展」を振り返る(前編)

オンラインにて開催された「江戸東京リシンク展」。現代美術家・舘鼻則孝の創作活動におけるプロセスである“リシンク=過去から引き継がれてきたものを見直し、現代に表現し繋げていく”という概念に沿いながら、江戸・東京の伝統産業の過去・現代・未来を紐解いていく内容である。全ての準備を終え、開催直前の時期、舘鼻氏の心境はどうだったのか。

各伝統産業事業者の持つ特性や価値ある部分に、どう焦点を当て、打ち出していくべきか

「江戸東京リシンク展」開催において、“伝統産業の新たな側面を映し、そこにアートとしての文脈を与える”というひとつの挑戦を掲げていた舘鼻氏。その胸内について語った。「今回携わってくださった伝統産業事業者の方々は、技術を持ち、真の職人として物づくりをされている方ばかりなので、作家をしている自分との共通言語は多かったように思います。だからこそ、協働して作品を制作する上で、単なるコピーアンドペーストではいけない。そこに超えなければならない壁を感じました。伝統産業事業者の方々にも新たな発見や驚きを与えたいという思いもあったので、あえて普段通りの工房の働きをしてもらい、伝統的なフォーマットはあくまで崩さないようにしてもらいました。その上で私がどのようなもの作りが出来るのかという点が一番のポイントでした」。伊勢半本店の紅、そして龍工房の組紐のように、素材を生かして作り出されたものや、うぶけやの、既製品そのままの状態を生かした作品など、多種多様な取り組みが感じられる。それぞれが持つ本来の魅力を引き出しながらも、今までに無い新たな側面が見事に表現された作品である。当初舘鼻氏が掲げていた“挑戦”の通り、今回の取り組みは伝統産業に新たな息吹をもたらしたように思う。

展覧会ディレクターを務めた現代美術家・舘鼻則孝が「江戸東京リシンク展」を振り返る(前編)

組紐の伝統的な技術と、舘鼻氏ならではの前衛的な感性が見事に融合された龍工房とのコラボレーション作品。

展覧会ディレクターとして感じた、江戸・東京の伝統産業とは

今展覧会では、ひとりの“作家”としての側面と、各事業者のディスプレイや展覧会全体の演出を手掛ける“ディレクター”としての側面、その二つの役割を担っていた舘鼻氏。「歴史ある伝統産業の目線から見ると、今展覧会は“新しいことをしなければいけない”という意識が、逆に足かせになることも考えられました。ですが事業者の皆さまの取り組む姿勢などを拝見し、さまざまな価値観や葛藤がある中で、たくさんの革新を積み重ねながら継承されてきた賜物なのだろうと思いました」。伝統産業や職人の方々は保守的に見られがちな中、非常に積極的に、未来を見て仕事をしている。この精神は、アグレッシブに商売を繰り広げていた江戸時代の歴史的背景にも通じるものであろう。その成り立ちに目を向けると、現在の“大都市・東京”の見方もまた、変わってくるのではないか。


江戸東京リシンク展|東京都・江戸東京きらりプロジェクト
https://edotokyorethink.metro.tokyo.lg.jp/map.html

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