展覧会ディレクターを務めた現代美術家・舘鼻則孝が「江戸東京リシンク展」を振り返る(後編)

展覧会ディレクターを務めた現代美術家・舘鼻則孝が「江戸東京リシンク展」を振り返る(後編)

伝統ある産品が“心の豊かさ”を取り戻すきっかけになる

現在も収まらないパンデミックのように、予期せぬ環境の変化が社会に与えた影響は大きいが、私たち自身にもさまざまな変化をもたらしたように思う。その中のひとつに、物事に対する“価値観の見直し”が挙げられる。伝統産業における消費者のニーズに変化が見られたのもその影響があったからではないか。「今ユーザーが求めているのは、自分を取り巻く環境を見直した丁寧な生活なんです。要するに現在のように環境が激変するなかで最も重要なのは“自分自身を見つめ直すこと”にあるということです。例えば自分自身を改めて見直すというところに立ち返ったときに、“永く使える自分だけのものを持つ”というライフスタイルは、物が溢れる現代においては非常にサステナブルで有意義なことだと思います。日本のアイデンティティのある、歴史的背景を持つ品物が、今を生きる人にとって非常に価値の高いものと取られる。この心境の変化は現代人にとって、例えるなら“心の豊かさ”を取り戻すきっかけになっているのではないでしょうか」。自身の所有物には必ず、自分が大切にしている価値観が表れているように感じる。歴史的背景だけでなく職人の想いも込められた伝統ある産品には、“物との付き合い方”を教えてくれる何かがある。そこには“自分の人生で大切にしなければいけないこと”に向き合い、前に進むためのヒントが隠されているのではないだろうか。

展覧会ディレクターを務めた現代美術家・舘鼻則孝が「江戸東京リシンク展」を振り返る(後編)

特定の用途を持つ“花鋏”が、美術品として変貌を遂げた。うぶけやとのコラボレーション作品。

初めて観た人がどんな反応を示し、新たな価値観を築いてくれるかどうかが最終的なゴール

今展覧会は、展覧会ディレクターとしての舘鼻氏の視点が、写真や動画など、さまざまなコンテンツとして具現化されているのが見所だ。「普段の個展においては、作品を制作しギャラリーで発表する。それを成立させることがゴールですが、今回に関しては目的が全く違います。発表されてからがスタートで、その後いかにプロダクトや事業者の価値をフォローアップして発信できるのかが一番のポイントとなります。この展覧会を初めて観た人がどのような反応をするのか、また鑑賞を経て新たな価値観が築けるかどうか、その反応こそが自分にとっての“江戸東京リシンク展“の最終的なゴールのように思っています」。と舘鼻氏は語る。伝統産業の未来への挑戦でもある今展覧会。アートという舘鼻氏からの投げかけに対して、私たちはどのような答えを導き出すことができるだろうか。自身の新たな価値観に気づくきっかけになれば嬉しい。


江戸東京リシンク展|東京都・江戸東京きらりプロジェクト
https://edotokyorethink.metro.tokyo.lg.jp/map.html

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