「今の“旬”を作ることが使命だと思います」。私たちが生きるこの現代社会を、江戸木版画・高橋工房はどう魅せるのか。未来への挑戦に迫る
2021.02.26
LIFE江戸時代、浮世絵版画は当時のファッションやトレンドを知る情報源として、庶民に寄り添いながら成長してきた。まさに雑誌カルチャーの生みの親ともいえる江戸木版画。「高橋工房」が考える、現代における役割や価値とは一体なんなのだろうか。
世絵版画は、通常15回〜20回の色摺りで完成される。多色摺りならではの鮮やかな発色が魅力だ。
摺師の技を支える道具が見られるのも本展覧会の魅力のひとつ。
浮世絵はずっと続けなければならない。その上で腕を磨きながら、私たちの技術がどれだけ新しいものと融合できるのか
機械では味わいを表現するのが難しい、繊細で色鮮やかに写し出された江戸木版画は、まさに伝統と職人技の賜物だ。今や国内のみならず世界の人を虜にしている高橋工房の江戸木版画、その新たな取り組みについて聞いた。「現在の活動については、建築家・デザイナーとしても名高い隈研吾さんのデッサンを、江戸木版画で再現することや、江戸時代の鳥居清長が描いた春画作品を復刻させるプロジェクトが進んでいます。またそれだけではなく、新しいデザイナーやイラストレーターの方々に現代のスタイルとして表現したものを描いてもらい、昔からのものからこれまで作ってきたもの、そして現代の江戸木版画で仕上げた全作品を並べて3月に発表する予定です。“浮世絵”というものは今私たちが生きているこの社会を絵にしたものです。江戸時代の浮世絵は、まさにその頃の旬なものを版画にしていたわけですから、私どもも、今の“旬”を作らなきゃいけない。それが江戸木版画をリシンクすることなのだと考えています」。伝統工芸や職人ときくと、どこか保守的なイメージを抱いてしまいがちだ。しかし高橋工房は、過去と現代の融合を掲げ、試行錯誤しながらも常に前向きに取り組んでいる。リシンクすることを恐れず、新しいものを求め変化を楽しんでいる姿が「江戸東京リシンク展」に通じる高橋工房のチャレンジなのかも知れない。
著名な芸術家たちの作品をオリジナルで再現した版画も高橋工房の魅力だ。
生き生きとした表情で現在の活動を語る高橋氏。
“どんな人が、どんなものを求めているのか”そのニーズを知ろうとする姿勢こそが、本来の江戸木版画の版元としての役目である
精力的な活動に注目が集まる高橋工房では、現代のニーズに応えるべく行っていることがあるという。「お求めいただいたのがどんな方なのか、アンケートなどを利用してリサーチし、それを新たな商品やプロジェクトに反映させています。一見伝統工芸には不必要なことに思われるかも知れませんが、まさにそれこそが江戸時代の版元の仕事でもあったのです。全てを把握するのは難しいですが、トライしてみないと何も変わらないという気持ちで励んでいます」と高橋氏。現代のニーズに合わせて変化しながらも、職人としての精神は変わらない。その絶妙なバランス感覚こそが江戸木版画の魅力をより引き立てる一因になっているのではないだろうか。
江戸東京リシンク展|江戸木版画 高橋工房
https://edotokyorethink.metro.tokyo.lg.jp/exhibitor_7.html
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