現代にこそ必要なメッセージが“のれん”には込められている。伝え手・中むらとしての新たな挑戦とは
2021.02.26
LIFE全国多くの場所で目にするのれん。内側と外側を完全に遮断するのではなく、柔らかな境界をつくる。その絶妙な距離感には日本特有の“余白”や“間”が感じられる。用途としてだけでなく、まるで日本人の民族性を表しているかのような、独特な世界観を持つのれんを、中むらはどのようにリシンクするのか
「江戸東京リシンク展」も、のれんをくぐることから展覧会が始まる。
のれんが現す緩やかな境界に、当時の日本の柔軟性が見て取れる
「昔から日本人は非常にクリエイティブで、柔軟性に長けていたと思います。なぜかというと、日本は他国の文化を上手にフィルタリングし、自国の文化とすることで発展してきたからです。島国という地理的要因もありますが、他の文化に対してはっきりとした線引きをせず、緩やかな境界感を持ってきました。まさにのれんは、その様な日本らしいデュアルな価値観を体現しています。しかし現代では、本来の持ち味である、柔軟さや多様さがうまく発揮できていないように感じます。もう一度、のれんが持つ文脈を再解釈、再構築し、のれん文化の面白さやメッセージ性を伝えていくことが、現代で日本文化の面白さや奥深さを再定義するリシンクにつながるのではと考えています」。特に近年、SNSなどの影響もあり、他者との距離感が非常に測りづらくなっている。だからこそのれんの境界が現しているような、近すぎず遠すぎずの絶妙な距離感こそがリアルであり、現代人が求めている形なのかもしれない。
今回の展覧会における演出として、それぞれの部屋を緩やかに仕切るようにのれんが掛けられている。
布を用いた柔らかな境界は、適度な距離を保ちながらも、“近さ”を感じることができる。
のれんをベースに、さまざまな技術やその魅力を提案していきたい
中むらは、さまざまなプロジェクトに関わってきた経験の中で、日本の手仕事に多くの可能性を感じている。「社会の仕組みや常識がめまぐるしく変わる中で、手工業や工芸技術の本来持っている強みや魅力が発揮されず、コミュニケーションに苦戦していると感じていました。その関係性づくりで自分にできることはないかと考える中で、暖簾事業を立ち上げました。のれんがさまざまな技術の魅力を提案するインターフェースになることで、新たな価値や関係性をつくっていくことができると考えています。江戸東京リシンク展でも、舘鼻さんが代表作であるヒールレスシューズを用いて伝統産業の新たな魅力を表現していたように、のれんもさまざまなジャンルの技術を実装できたらと思っています」。リシンクされたのれんの可能性は無限に広がる。「江戸東京リシンク展」で表現された“境界”は、まさに中むらが伝えたいのれんの魅力の一つだと思う。これからも中むらの活躍に期待したい。
江戸東京リシンク展|暖簾 中むら
https://edotokyorethink.metro.tokyo.lg.jp/exhibitor_8.html
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