伝統産業の中にある“本質”。「江戸東京リシンク展」から得た、新たな価値観
2021.03.06
LIFE伝統産業や伝統工芸品と聞くと多くの人々は、「高価すぎる」「気軽には使えない」「古風な考え」など、どこか縁遠く感じてしまいがちだ。そこには“伝統”という言葉に対する大きな壁がある。しかし、そのハードルを超えることで新たな価値観に出逢えることもある。今展覧会にはそんなメッセージが秘められている。
知ろうとしなければ決して気づくことが出来ない、現代に生きる伝統産業の姿
「江戸東京リシンク展」に参加した伝統産業全てに通じる大きな共通点。それは、“受け継ぐべき伝統は大事に守りながらも、現代の感性を上手く取り入れ、変化に前向きな活動をしている”ということだ。
江戸木版画・高橋工房
江戸の“旬”を版画にするという、当時の時代や社会的背景があったからこそ生まれた「浮世絵」。長年受け継がれてきた技法や浮世絵独自のスタイルは変えずに、現代のデザイナーやイラストレーターと共に、今の“旬”を版画にしている。その作品が、いずれ過去の“旬”として伝承されるのだと思うと感慨深いものがある。
江戸切子・華硝
現代のニーズに合わせることが、案に相違して原点に戻るきっかけとなった。「暮らしの中に心から綺麗と思えるものを近くに置き、豊かな気持ちで過ごしたい」。そんな消費者ニーズにこそ、現代人の求めている本質が隠れているように思う。
江戸小紋・廣瀬染工場
遠目では一見無地にも見えるのだが、近づいて見ると繊細な柄が広がる江戸小紋は、日本独特の「粋」な精神と「美」を象徴している。廣瀬染工場では、世界に向けて小紋文化を発信することで、新たな風を自ら吹き込み、これまで気づけなかった価値を見出している。海外のデザイナーとも交流を持ち、現代ならではの感性を磨きながら精力的に活動している。
紋章上繪師・京源
昔ながらの職人のイメージを一気に覆すような、“好奇心”と“遊び心”に溢れた京源は、家紋をデザインとして捉えることで、数々のクリエイターとのコラボレーションを実現。今や小さな子供から大人、世界の人々までも虜にしている。家紋の新たな表現方法も次々と生み出す京源の勢いは、今も止まることを知らない。
中むら
本展覧会を象徴するように掛けられている中むらののれん。会場に入る瞬間、それは外の世界と展覧会との境界において繋がりを保ちながらも緩やかに仕切る。そこに中むらが考えるのれんの普遍的価値が感じられる。
職人たちの物事に対する姿勢や、作品に込められた想いこそ、今の私たちが求めているもの
「江戸東京リシンク展」を通して、伝統産業の一歩先を覗いてみると、これまでの価値観が一気に変わるのではないか。グローバル化が進む現代で、長年受け継がれてきた伝統産業を継承するということは決して簡単なことではない。それにも関わらず、これだけ生き生きと活動しているように感じるのは何故だろう。それは、これまで受け継いできた伝統文化に、自分たちが一番に惚れ込み、誇りを持ち、継承するために日々努力してきたからではないだろうか。そこに感じる特別感や温かみは、機械化、商業化された製品には決して出せない。職人たちの熱い想いが自然と現れるプロダクト、今私たちは求めているのは、そこにある価値なのではないだろうか。
江戸東京リシンク展|東京都・江戸東京きらりプロジェクト
https://edotokyorethink.metro.tokyo.lg.jp/map.html
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