のれんの新しい価値を再提案する立場として、伝統産業と使い手の架け橋となり、魅力を発信し続ける「中むら」。その一枚の布には、日本らしい“間”に込められた精神性が見える

のれんの新しい価値を再提案する立場として、伝統産業と使い手の架け橋となり、魅力を発信し続ける「中むら」。その一枚の布には、日本らしい“間”に込められた精神性が見える

街なかで見かけるのれんといえば“目印の看板”のような存在。普段、何気なく私たちが接している“のれん”には、実は思いも寄らない、たくさんの意味が込められていることをご存じだろうか。のれんの世界を読み解いていくと、日本人を象徴するような面白い魅力がみえてくる。

空間を遮断するのではなく、自由に出入りできる“境界”。その絶妙な“間”が日本文化に根ざした人間性を表している

電子看板が普及する昨今でも、のれんは多くの場所で使われている。入り口にあるだけで店の佇まいを感じさせ、和を象徴するような見た目も魅力的だ。のれんが今も日本で愛される理由とはなにか。「のれんが表す“境界”は、西洋文化にはないものです。内側と外側を完全に遮断するのではなく、布を用いることで、柔らかい間仕切りをつくる。そこには、自然と調和する日本文化の良さが見て取れます。またお互いの存在を尊重し合うという意味での“隙”だったり“間を取る”といった捉え方もできます。“一つの事柄が複数の意味合いを持っている”というのが、とても日本人らしくて面白い、のれんならではの世界観ですよね」。

のれんの新しい価値を再提案する立場として、伝統産業と使い手の架け橋となり、魅力を発信し続ける「中むら」。その一枚の布には、日本らしい“間”に込められた精神性が見える

のれんは生地の風合いもそうだが、染めや塗りで表情が全く変わる。

のれんの新しい価値を再提案する立場として、伝統産業と使い手の架け橋となり、魅力を発信し続ける「中むら」。その一枚の布には、日本らしい“間”に込められた精神性が見える

中むらの新しい試みの一つ。表裏で違う絵柄のものや、レザー素材ののれん。

「江戸東京リシンク」展では、展示同士の区切りとしてのれんが摂り入れられることになっている。個性的な伝統産業一つひとつを引き立てつつも、一体感を演出する。まさにのれんならではの役割を感じられるだろう。この近すぎず遠すぎずの絶妙な距離感は、日本人独特の人間性が見て取れ、知れば知るほど、非常に奥深い日本文化に引き込まれていく気がする。のれんが表す境界を感じながら、“くぐる”という日本らしい心の間合いをぜひ楽しんでほしい。

のれんの新しい価値を再提案する立場として、伝統産業と使い手の架け橋となり、魅力を発信し続ける「中むら」。その一枚の布には、日本らしい“間”に込められた精神性が見える

外の日差しが柔らかく透ける。のれんは隣り合う空間を決して遮断しない。のれんの存在意義を世界に広める「中むら」のこれからが注目される。

“伝え手”として、のれんの価値を再提議し、「のれん=日本の入り口」として世界に発信していきたい。

大正12年創業より、東京・神田で着物や生地などのメンテナンスを取り仕切ってきた「中むら」。職人のコーディネーターのような役割をする悉皆屋(しっかいや)を営んできた。近年では現代の悉皆屋として、藍染めや引き染めなど伝統技法から、テクノロジーを用いた現代技法まで、さまざまな手仕事をコーディネートし、多様性のあるのれんを企画・製作プロデュース。のれんの新しい魅力や価値を広めるために、いろいろなことに挑戦している。「大きく二つのことに取り組んでいます。一つは“のれん”というものを再定義して、その価値について皆さんに考え直してもらうきっかけ作りをすること。そしてもう一つは、それぞれ得意分野が異なる職人たちの技術を生かして、多様性のあるのれんを提供していくことです。それにより、のれんのソースが増え、職人自体の仕事を増やすことができる。素敵なのれんがたくさん並べば街並みも様変わりして、”これが日本だ!“というようなパワーが生まれるのではないかと思います。まだまだ僕たちにもできることがあると思うので、職人の技術を組み合わせながら、日本の面白い“のれん“を世界にもどんどん発信していきたいですね」。のれんという存在は、ただ通りすぎるのか、それとも日本を感じさせる境界に思いを巡らせながら通りすぎるので、心持ちが随分違ってくるものだ。過去から現代へと受け継がれてきた、日本らしさ。そのことを「中むら」ののれんは伝えてくれているような気がした。

Photo by Satomi Yamauchi