「家紋」のデザインの奥深さを、一冊の本で表現。

「家紋」のデザインの奥深さを、一冊の本で表現。

12月に発売された書籍『紋の辞典』(雷鳥社)には、蔦、葵、揚羽蝶、雲……と、日本人には馴染み深い「家紋」の数々が並ぶ。だが、いつもとは違う、まるで宇宙の神秘に触れたようなゾクっとするほどの深遠さを感じる。そこに描かれた家紋はすべて、「紋曼荼羅®」と呼ばれる独自の技法で描かれたもの。作図過程のすべての線の軌跡を残して表してあり、家紋が円と線の組み合わせで構成された美しいデザインであることを教えてくれる。

本を書き下ろしたのは、「京源」三代目の波戸場承龍氏と息子の耀次氏。着物に家紋を手で描く職人である「紋章上繪師」として江戸文化の継承を担ってきた承龍氏が、耀次氏とともに新たな表現を目指してデジタル技術を導入したのは10年前のことだ。
「竹製のコンパスと定規がデジタルツールに変わったことで、手描きの際には表に出ない円と線の軌跡が画面上に残され、曼荼羅のように美しく見えたんです」

こうして誕生した「紋曼荼羅」を、アート作品やプロダクトなど様々な分野に展開してきた。そして、初の試みとして書籍としてまとめたのだ。面白いのは、紋がモチーフの名前順ではなく円線の数の順に掲載されていること。ページをめくる度にどんどん模様が複雑になっていき、秘密のコードを読み解いていくようなワクワク感がある。
「複雑なものであっても、大変だと思ったことは一度もない。描くことが楽しくてしょうがない。かの北斎も“万物はつまるところ方と円につきる”と言っているように、完璧な円と線を組み合わせることで完璧な表現ができると思っています」

本書には「現代の紋」として、日本橋のCOREDO室町に掛かる大暖簾の紋も紹介されている。その中のひとつ、「五角入れ子枡」は、日本橋が五街道の起点であることから五角形の枡をベースにした紋。外側の一升枡を“入”の字で組み、その中に“人”の字で組んだ五合枡を入れ子にして「一生繁盛益々人入る(一升半升枡々人入る)」という意味を持たせ、江戸の粋な洒落の文化をも取り込んだ。
「シンプルな形の中に、深い意味を込めることを常に意識しています」
まさに、本質を表すジャパニーズデザインの真骨頂。次は紋の描き方を説明する本を企画中という。本を通して、次の世代にも紋の魅力を伝え、ますますその無限の世界を広げてほしい。

『紋の辞典』

著者:波戸場承龍、波戸場耀次
発行:雷鳥社
文庫判 360ページ
定価 1,650円(税込み)

■京源 公式サイト 「紋の辞典」のご紹介
http://www.kyogen-kamon.com/monnojiten

「家紋」のデザインの奥深さを、一冊の本で表現。