挑戦を恐れない豊島屋本店が世界へ向けて送り出した最高級の日本酒誕生秘話
2024.11.14
FOOD今や世界中で愛される存在となった日本酒。ユネスコ世界無形遺産に登録された「和食」の広まりと呼応して、日本酒に対する理解も急速に深まっています。東京最古の酒舗として知られる豊島屋本店(1596年創業)の代表取締役社長・吉村俊之さん(16代目)も、海外のイベントなどに出向くたび、現地の消費者の知識がどんどんレベルアップしていることを実感すると話します。
そんな豊島屋本店が今年、酒蔵(豊島屋酒造)と共同で、ブランドを象徴する新商品として世に送り出したのが「純米大吟醸 豊島屋」です。もろみを酒袋に入れて自重で垂れた酒を集める「袋垂れ」を採用し、氷点下で3年に及ぶ熟成を経たこの酒は、720ミリリットル入りで1本22,000円、年150本のみという限定商品。同社のラインナップの中でも最高級ランクとして開発されました。
商品誕生の背景にあったのは、海外での日本酒人気の高まりです。ワインに負けないクオリティでありながら、ワインと比べると格段に安い日本酒に対し、海外のバイヤーなどから「もっと高価な品を」という声が多くあったのだそうです。そこで、価格に見合ったより上質な味を追求するのはもちろんのこと、高級感を演出するボトルやラベル、箱にもこだわりました。
アメリカとヨーロッパを中心に輸出を増やしている豊島屋本店の日本酒の中で、特にフランスで人気を集めているのは「金婚 純米吟醸 江戸酒王子」だそうです。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催にあわせ、「東京らしい酒を造れないか」という思いから生まれたこの酒は、なんと、日本酒の原料である米・水・酵母のすべてが東京産。
八王子産の食用米「キヌヒカリ」だけを使用し、酒蔵がある東村山の水、そして、古い酵母を復活させた「江戸酵母」で醸すことで、100%東京生まれの日本酒が誕生したのです。特徴は、まるで白ワインのような酸味。その珍しい味わいに社内でも賛否両論があったそうですが、いざ発売すると好意的に受け入れられ、フランスの日本酒コンクール「Kura Master 2020」では最高賞のプラチナ賞に輝きました。
現在、豊島屋本店で扱っている商品は50種類近く。これほどの数を造り続けるのは大変なことですが、吉村さんによれば、若くて酒造りに前向きな蔵人が多く、新商品開発にも積極的だと言います。その根底にあるのは「不易流行」の精神。「守るべきもの(不易)は頑なに守り、変えるべきもの(流行)は大胆に変える」という、創業以来の行動指針です。
そのバランスの良さを体現するかのような酒が、創業者の名を冠した「金婚 純米無濾過原酒 十右衛門」。火入れ(加熱処理)を施すことで味にまろやかさが生まれ、それと同時に、清々しい香りと喉越しの良さもあわせ持っています。食中酒を目指して造ったという吉村さんの説明のとおり、どんな料理も引き立てるオールラウンダーな酒です。
今後は、酒離れが進むと言われる若者たちに好まれるような日本酒づくりや、日本酒に触れる場づくりにも力を入れたい、と新たな挑戦へ意欲を見せる吉村さん。伝統を守りながらも、令和の風潮にあわせた大胆な酒を果敢に生み出してきた豊島屋本店から、この先どんなお酒が誕生するのか、楽しみは尽きません。