セルフメディケーションを身につけて、いきいき、快適な毎日をセルフメディケーションを身につけて、いきいき、快適な毎日を

セルフメディケーションを身につけて、いきいき、快適な毎日を

新型コロナウィルスの世界的流行以降、人々の健康に対する意識はますます高まってきている。そんな今の時代に、より求められているのが「セルフメディケーション」だ。「セルフメディケーション」とは、WHOの定義によれば「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てする」ということ。
「年齢や体調に応じて自分にあった健康法を考え、体を整える、ということですね」と話すのは、公益財団法人東京生薬協会の末次大作さん。
優良生薬の確保とその振興を図る活動を中心に行っている東京生薬協会では、1953年の設立以降、早い時期からセルフメディケーションの推進に力を入れてきた。
「日本では江戸時代から“養生”という言葉がありました。それは、衛生を守り、健康の増進に心がける、ということで、今でいえば“健康法”です。まさにこれはセルフメディケーションですね。現代の生活においては、日頃から自分の健康状態を把握しながら生活習慣の改善に取り組んだり、適度な運動をしたりして病気の予防や体調管理を行うこと。そして、風邪のひき始めやちょっとした怪我などは、ドラッグストアなどで購入出来る一般用医薬品(OTC医薬品)や生薬製剤を活用して自ら治療をして、重症化させないこと。これもセルフメディケーションに当てはまります」
要は、自分の健康はまず自分で守る、ということだ。もちろん、状況によっては医療機関にかかることも必要になるだろう。
「ただ、令和4年度の日本の医療費は概算で46兆円、ともいわれているように、年々、増加して過去最高を更新しているのが現状です。それを考えると、軽微な症状であれば(可能な範囲で)まず自分で治療することによって、全体としての医療費も抑えられることにつながっていきます」
セルフメディケーションの実践によって、一人ひとりに健康管理の習慣や医療、薬の知識が身につき、結果的に医療機関で受診する手間を省くことができる、というメリットもある。さらにそれがトータルで国全体の医療費増加を抑制することにもつながる、というわけだ。

セルフメディケーションを身につけて、いきいき、快適な毎日を
秋田県美郷町:キキョウ畑



東京生薬協会では、市販薬や生薬製剤に使われる薬用植物の国内栽培を推進するために「薬用動植物国内栽培事業」も行っている。これは、国内の選定された栽培地に薬用植物栽培指導員を派遣して栽培の指導や種苗の提供などを行う、というもので、地方自治体と連携して2014年度から行われている。現在は、秋田県を始め全国5か所の栽培地で実施中だ。
「一般の農作物と違い、栽培する薬草は医薬品に使われるものなので、生薬としての規格が合うものを生産できるようになるまでには、やはりある程度の時間がかかります(*生薬とは、薬用植物を乾燥するなど、簡単な加工を施したもののことをいう)。試作栽培から始めて何回かトライして、これならいけそうだというものができてから本格的な栽培に入る、という手順を踏まなければならないので、当然、その間はすぐに収入には結びつきません」
それでも、薬用植物の栽培事業は公益性があり、やりがいのある事業だと末次さんはいう。
その理由の一つが「農業の活性化」だ。全国で廃業する農家や耕作放棄地が増えている現在、薬用植物の栽培は農業の活性化策の一つとして注目されていて、平成25年度からは国の補助金事業も開始されている。そのため全国の自治体や農家から、“うちでもやってみたい”、“栽培作物を薬用植物に転換したい”、という関心が高まっているのも事実だ。
また、「生薬調達のリスクマネジメント」の点からも国内栽培にはメリットがある、と同協会の田中建次さんが話してくれた。
「医薬品の原料となる生薬の供給は約9割が輸入に依存しているのが現状で、そのうちの約9割が中国からの輸入に頼っています。ただ、近年は中国産も価格が上昇したり、品質のばらつきなどもあって、供給の不安定ということが問題になってきています。それらを解消する意味でも、今後は中国だけに頼るのではなく、国産の生薬を栽培していくことには価値があると思っています。さらには、「品質」ですね。国内で栽培することによって、“どこで”、“誰が作った”、また“農薬や肥料の有無”など、生産履歴やトレーサビリティーが明確な生薬を確保することができます。これは消費者の皆さんに安心してお薬を使っていただけるという意味からも、品質の確かな優良生薬が確保できるということで、メリットは大きいと思います。当協会では、設立時の設立趣意書に「優良生薬の安定的確保と品質の向上」を掲げて以来、その実現を使命としており、薬用動植物の国産化率向上に対する支援事業は、協会の理念にもかなっているものとして、これまで続けてきています」
実際、これまでには国内7か所の拠点で栽培を行ってきている。そのうちの2か所(新潟県新発田市と福井県高浜町)については、継続的に薬用植物を栽培・出荷できる体制が整い、医薬品メーカーと取引ができるようになったため、協会としては目的を達成したとして事業を終了。現在は5か所で事業を継続しているという状況だ。

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キキョウ根収穫・秋田県美郷町



薬用栽培事業で、近年、嬉しいニュースもあった。
「秋田県の美郷町の栽培地では、ここ10年ほどキキョウ(桔梗)を中心に栽培をしてきましたが、昨年、初めてカンゾウ(甘草)を収穫することができました。カンゾウは主に中国東北部や中央アジアなどの乾燥地帯で育つもので、雨の降る日本での栽培は難しく、これまで国産は、ほぼゼロでした。カンゾウは毎年、中国から年間1600トンくらい輸入しているので、国産のものができたら、と長年、試していたのですが、なかなか成功に結びつかなかった。それがついに、美郷町で成功したのです。今後はできればこれを全国展開に拡大して、カンゾウの栽培地を広げていきたいと思っています。年数はかかるかもしれませんが、頑張ってやっていきたいですね」
国産の薬草栽培の未来に、大きな期待が寄せられている。