
ゆかた文化の新しい提案―三勝が提唱するライフスタイルデザインの可能性
2026.03.02
FASHION1894年人形町に創業した、注染を中心としたゆかた専門店、三勝。四代目天野半七さんは、ゆかた文化を未来へつなぐための新しい試みに挑戦しています。「三勝では代々、生地・型・染めを全国の職人に発注して一枚のゆかたをつくってきました。コロナ禍で生産が止まってしまった時、ふと倉庫に眠る2万枚以上の型紙を見直したら、世界でも類を見ないほど素晴らしい意匠がたくさんあることに気づいたのです。そこで新たな方法でこれらを現代によみがえらせたいと考えました」。
2024年には、本社地下1階の三勝ゆかた博物館をリニューアルオープン。伊勢型紙や注染・長板中形の資料や反物、人間国宝・清水幸太郎氏の作品など貴重な資料を展示しています。最近では、熟練の職人の手によって作られるゆかたの奥深い世界に初めて触れる旅行客も多いようです。続いて、インテリアブランド「室礼(しつらい)」、季節を問わず楽しめるアパレルブランド「布衣(ふい)」を発表しました。海外では、社会的テーマを反映したデザイナーがコレクションを披露する場として知られるファッション・ウィーク・ブルックリン(FWBK)に参加したり、隠岐にあるUNESCO世界ジオパーク内の宿泊施設と期間限定のコラボレーションを試みたり、現代のライフスタイルに合わせたゆかた地の魅力をさまざまなかたちで積極的に発信しています。

「弊社が得意とする注染の技法や産地のことなど、みなさんに伝えたいことはたくさんあります。そのきっかけづくりになればと、古くて新しいゆかたの意匠をライフスタイルデザインとして日常に取り入れる提案をしています」と天野さんは話します。2025年12月には、ゆかたの意匠をアートとライフスタイルの両軸で再解釈した展覧会「三勝謹製 新しい和のかたち展」が、三勝ゆかた博物館の一般公開とともに本社の正面にある百年ギャラリーで開催されました。
たとえば、宮内庁御用達の漆器ブランド・山田平安堂とコラボレーションした器を主役にしたダイニングルームのコーディネート。伝統的な型紙文様である「鯛中鯛(たいちゅうたい)」が金と銀の蒔絵であしらわれた漆器が、落ち着いた照明の空間に上品な存在感を放っていました。「三勝でも人気の高い『鯛中鯛』のモチーフは、鯛の胸ビレとエラの間にある小さな骨が鯛のかたちに似ていることから江戸時代には縁起物やお守りとされていたものです。その鯛の中の鯛に“重ね重ねのめでたさ”を象徴する吉祥文様の青海波(せいがいは)を合わせ、福と平安が末永く続くようにとの願いが込められた柄が『鯛中鯛』なんです。こんなエピソードもテーブルを囲む家族や友人たちとのちょっとした会話のきっかけにもなるかもしれません。そして、なによりお祝いのための料理を盛り付ければ、集いの場がいっそう華やぎます。お正月など特別な席にぴったりです」。
展覧会ではほかに、ゆかた地をクッションカバーや照明のシェード、サーフボード、パーテーションなど、現代のインテリアに応用した「室礼」シリーズでコーディネートしたリビングルームやベッドルームが提案されました。羽を広げた白鷺をあしらった意匠などゆかたならではの大胆な柄と色合いは現代の家具とも調和し、洗練された和モダンな空間を演出していました。

右:「鯛中鯛」の反物をパーテーションにアレンジ。通常ゆかたでは組み合わせない絵(柄)合わせにより、新鮮なデザインが生まれています。

人形町に店を構えて130年。三勝は次の100年に向けて、環境にやさしいサステナブルなゆかた文化の未来も模索しています。「かつて伝統的な木綿のゆかたは、サイズが合わなくなったら仕立て直して長く着続け、古くなったらバラバラにしてふきんや雑巾にするまで最後まで無駄なく使いきられるものでした。また、天然繊維なので(生分解性の性質から適切な条件下では)土に還る素材ですから、環境にやさしいということもあります。そういったゆかた地の魅力も、国内外を問わずより多くの方に知っていただきたく、“ゆかた×ライフスタイルデザイン”を提唱させていただいています。日本人が古来持ち続けてきた審美眼やサステナビリティの精神を忘れずに、日本の伝統工芸技術とゆかた文化の継承に取り組んでいきたいと思っています」。
そのような思いをさらに進化させていく試みとして、江戸東京きらりプロジェクトでは、特別な「アートゆかた」や新たなライフスタイルデザイン商品を開発中の三勝。そのお披露目が、三勝本社ビル正面「百年ギャラリー」で開催されます。第二次世界大戦の戦火を逃れた貴重な型紙など三勝の歴史の展示とともに鑑賞できる貴重な機会です。ぜひ、訪れてみてはいかがでしょうか。
