杢目金屋が挑む、金属工芸技術の進化と新たな価値創造杢目金屋が挑む、金属工芸技術の進化と新たな価値創造

杢目金屋が挑む、金属工芸技術の進化と新たな価値創造

木目金(もくめがね)とは、金属の色の違いを利用して木目状の文様を作り出す日本発祥の金属工芸技術です。杢目金屋は、江戸時代におもに刀の鍔(つば)に施されて発展したこの技術を用いてジュエリー制作を行っています。職人の手によって、金属の色の違いを利用して生み出される木目状の模様は一つひとつ異なるため、記念日のオーダーメイドジュエリーとして人気があります。ジュエリー制作と並行して木目金の技術研究にも取り組む杢目金屋は、2023年からオンラインミュージアム木目金美術館も運営しています。

杢目金屋の代表・髙橋正樹さんは、2003年に設立したNPO法人日本杢目金研究所で海外の美術館・博物館に収蔵されている木目金作品の調査や、考古学的、技術的に資料的価値の高い作品の復元研究を行っています。当時使用されていた工具の再現も含めて当時の制作工程を可能な限り踏襲して復元する研究方法で、彫跡に合った鏨(たがね)を一から作ることもあるそうです。「当時の制作者の意図だけでなく、工具の痕跡から、感性や息吹までを感じることができます。一見、楕円がランダムに配されただけに見える鍔は、復元には高い技術が必要で、原作者の制作意図の奥深さに翻弄されました」と髙橋さん。

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杢目金屋が挑む、金属工芸技術の進化と新たな価値創造
左から「木目金地鐔 銅 赤銅 四分一」 銘 武州川越住 恒忠(江戸時代後期)、同 (2022年復元研究制作)/日本杢目金研究所蔵


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鏨で彫りを入れる工程。彫った部分に金属の積層模様が現れます。


技術を継承するうえでまず大事なことは日常的に身につけ使われるものであることと考え、人の生活に必要とされるものづくりを信条としている髙橋さんは、杢目金屋でお客様に提供するジュエリーも、伝統技術を研究するために制作する復元作品のどちらも作品と呼べるものだといいます。

例えば杢目金屋のマリッジリング「つながるカタチ」はカップルが一つのつながった木目模様の指輪を二つに分けて完成させるという体験ができ、二人の思い出という価値が加えられます。髙橋さんは復元研究によって難しい技術を習得し、その成果を(杢目金屋として)ジュエリー制作にいかしながら新たな価値を加えて江戸時代の技術を現在のライフスタイルにあった作品として進化させているのです。

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オーダーメイドで職人が制作する結婚指輪「つながるカタチ」。


髙橋さんは続けます。「オンラインミュージアムを通じて、多くの方に日本の魅力的な技術を知ってもらうことも未来への継承のために大切だと考えています」。木目金美術館では木目金の歴史や、刀の鍔から工芸品までどんなものに使われていたのかを高画質な画像で閲覧できるようになっており、初めて知る人にもわかりやすく解説されています。

このオンラインミュージアムは江戸東京きらりプロジェクトの一環として、英語版と繁体字版のサイトもオープンし、杢目金屋のコーポレートサイトとの一体化を図りました。この試みが世界中の人たちとの交流のきっかけになり、いまや国内外の工芸や美術を学ぶ学生、研究者、作家や職人からの反響もあるそうです。「最近では特に海外の研究者との交流を深めています。木目金に限らず、さまざまな日本文化の研究者たちの熱量と知識量には頭が下がる想いです」と髙橋さん。

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「オンラインミュージアムは今後必要不可欠な発信方法。一般の方々への普及をさらに進めたい」と話す髙橋さん。将来的には、インタラクティブなミュージアムにする構想もあるそうです。


まだご覧になったことがない人は、木目金美術館にもぜひ、アクセスしてみてください。杢目金屋のジュエリーに込められたストーリーをより深く感じることができるはずです。

■木目金美術館
https://mokumegane-japan.com/museum.html