廣瀬染工場

廣瀬染工場

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小紋柄に表れる江戸の美意識

1918年に創業した廣瀬染工場は、百年以上にわたり、江戸小紋を専門で染めてきた。江戸小紋とは、武士の裃(かみしも)をルーツとする着物の柄で、一見無地に見えるほど、細かく精密な柄が全体に施されている。凝った意匠を見せびらかすのではなく、近づいてみて初めてわかるほど、細かく控えめに表現する江戸小紋には、さり気なさを美徳とする日本人の気質がよく表れている。その最たる例が、非常に薄い布地の両面にまったく別の色と柄を染める、「両面染め」と呼ばれる染色方法だ。高い技術力を必要とする技法だが、普段は滅多に人の目に触れることのない裏側にこだわることで、奥ゆかしいお洒落が楽しめる。

廣瀬染工場の四代目・廣瀬雄一は、現代に江戸小紋伝統の技と心意気を受け継ぐ若き染め職人だ。染職人になる以前はウインドサーフィンに打ち込み、オリンピックの強化選手として活躍するほどの腕前を持っていた廣瀬だが、ウインドサーフィンで世界を目指すのか、それとも家業である江戸小紋の職人として世界を目指すのか、その二択で思い悩んだ結果、子ども時代から憧れ続けた、先代の背中を追うことを決意した。

世界に江戸小紋の魅力を発信するという明確な目的を持った廣瀬は、次から次へと新しい試みを始めている。彼は2011年にストールブランドの“comment?(コモン)”を立ち上げ、着物以外の新たなジャンルにも、江戸小紋を活用していく可能性を見出した。14年にはフランスで江戸小紋の講演や実演を行うと同時に、世界最高峰の国際的なテキスタイルの見本市「プルミエール・ヴィジョン」に出展するなど、世界の大きな波へと挑んでいる。2018年で創業100周年を迎えた老舗染工場が、いま風に乗って颯爽と海を越えていく。

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