舘鼻則孝がアートで問いかける、伝統産業の「これまでとこれから」江戸東京リシンク展に掛ける想いとは(前編)

舘鼻則孝がアートで問いかける、伝統産業の「これまでとこれから」江戸東京リシンク展に掛ける想いとは(前編)

遊女が履く下駄をモチーフにした「ヒールレスシューズ」など、日本の伝統文化を現代に再定義し、新たな視点と世界観で表現してきた現代アーティスト、舘鼻則孝。彼がディレクションを手掛ける「江戸東京リシンク」展開催を前に、展覧会への想いや、第一線で活躍するきっかけとなった、日本の伝統文化との創造秘話に迫る。

日本において過去から連綿と続く工芸品は、アートに昇華することができる

こんにちの産業においては、機能性の高さが重視され、何でも機械化が進み効率化が求められる一方で、日本には伝統的なものづくりを、代々受け継いできている“伝統産業”が全国各地にある。何もかもが便利すぎる時代に生きる我々現代人は、伝統産業や伝統工芸品と聞くと、まずどういったイメージを抱くだろうか。もちろんその良さを知り、好む人もいるが、多くの人は「日常で気軽に使えない」「高価すぎる」など縁遠く感じ、“伝統産業がゆえに保守的なもの”として敬遠してしまいがちだ。現在もこの産業に携わり、商売を続けている問屋や職人はいるが、材料費の高騰や後継者問題、生活者ニーズの変化への対応など、さまざまな理由で継承することが困難な伝統産業も多い

舘鼻則孝がアートで問いかける、伝統産業の「これまでとこれから」江戸東京リシンク展に掛ける想いとは(前編)

アトリエに並ぶ舘鼻氏の代表作「ヒールレスシューズ」。遊女の履く下駄がこのようなアートに昇華される。

工芸文化を今の時代や世界にどう伝えて行くべきか

舘鼻氏は現在の日本の伝統産業や伝統工芸に対してこう語る。

「日本美術は、用の美とも表される“工芸”から始まっていると思います。つまり用途のある調度品が工芸品といわれるようになり、“藝”がつく美術品としての価値が認められるようになっていった。しかし世界やヨーロッパの美術の文脈と比較すると全く異なります。現代において、日本では美術的価値の高さが認められている工芸品も、世界に出るとアートではなくデザインの分野のオブジェや家具などと同様にみられてしまう傾向がある。それは事実として認めつつ、過去から続いている日本の工芸文化というものを、さまざまな側面から解釈して、アートに昇華させることが、伝統産業が継承されるという視点でも一つの気づきになるのではないかと考えます。」

伝統産業や伝統工芸は、使い手がいなければ、今まで受け継がれてきたものが途絶えてしまう。しかし、時代に合わなくなったものを無理やり使うのではなく、違ったかたちで打ち出し魅力を発信する。これまでの固定概念を捨て、それぞれの感じ方で伝統産業を楽しむことができれば、現代に直面している問題を、少しでも解決していくことができるのではないだろうか。

Photo by Satomi Yamauchi

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舘鼻則孝
1985年、東京生まれ。歌舞伎町で銭湯「歌舞伎銭湯」を営む家系に生まれ鎌倉で育つ。東京藝術大学では絵画や彫刻を学び、後年は染織を専攻する。在学中は、遊女に関する文化研究と共に、江戸時代に考案された日本の伝統的な染色技法である友禅染を用いた着物や下駄の制作をする。代表作「ヒールレスシューズ」などの作品が、ニューヨークのメトロポリタン美術館やロンドンのヴィクトリア&アルバード博物館など、世界著名な美術館に永久収蔵されている。近年は現代美術家として国内外の展覧会へ参加する他、伝統工芸士との創作活動にも精力的に取り組んでいる。