舘鼻則孝がアートで問いかける、伝統産業の「これまでとこれから」江戸東京リシンク展に掛ける想いとは(後編)

舘鼻則孝がアートで問いかける、伝統産業の「これまでとこれから」江戸東京リシンク展に掛ける想いとは(後編)

積み上げられた過去の日本文化の延長線上に、現代の日本があるということ。それを定義するためにはどうすれば良いか

学生時代は、日本の伝統工芸を学べる東京藝術大学に進学した舘鼻氏。今や海外でも、押しも押されもせぬ現代アーティストとなった彼だが、日本の伝統文化や歴史に対して、何か思い入れがあったのだろうか。その経緯をきいてみた。

「当時は、ファッションデザイナーを目指していたこともあり西洋の文化に惹かれ、欧米への憧れもありました。ファッションの本場である海外で活躍するにはどうしたら良いのか悩んでいました。実際に自分が外国へ行き、外国の文化を学んでいる姿を想像したときに、果たして他国の文化に身を染めることが、日本人である自分にとって世界を舞台に戦うための武器になるのか疑問に思ったのです。それがきっかけで、僕にしかできないことを追求しようと決め、生まれ育った日本の文化を学ぶことで自分のアイデンティティを見つめ直そうと思いました。」

海外に目を向けることはとても良いことだ。しかし私たちは、自分の国の文化や歴史、伝統を本当に深く理解しているだろうか。きらびやかで目を奪われがちな、海外の流行やカルチャーだけを追い求めるのではなく、日本で受け継がれてきた文化や歴史を見つめ直すことで、今、そしてこれから育まれる文化を知るきっかけになるのではないかと思った。

舘鼻則孝がアートで問いかける、伝統産業の「これまでとこれから」江戸東京リシンク展に掛ける想いとは(後編)

舘鼻氏の作品のモチーフとして扱われることの多い「雷雲」は、生と死の境界線を表現しているという。

“アート=問題提起” 過去の日本文化を見直し、現代にどう表現するか

今回のメインコンテンツはアートだ。普段あまり触れる機会がない伝統産業や、工芸的な表現の魅力が詰まっている。これまで受け継がれ、守られてきた歴史が、舘鼻氏との創作により、現代アートとして生まれ変わる。

「伝統産業の新たな側面を示し、アートとしての文脈を与えることが今展覧会の挑戦でもあります。そして、今まで限られた世界でしか価値を感じてもらえなかったものを、この展覧会をきっかけに違った面から注目していただき、伝統産業の継承されるべき存在価値に気づいてもらえたらと思っています」。と語る。

舘鼻則孝がアートで問いかける、伝統産業の「これまでとこれから」江戸東京リシンク展に掛ける想いとは(後編)

舘鼻氏のアトリエでは、皮革の染色や型押しの加工など、様々な素材や道具を用いた制作が行われている。

舘鼻則孝がアートで問いかける、伝統産業の「これまでとこれから」江戸東京リシンク展に掛ける想いとは(後編)

工芸的な手仕事を基本に行われる制作は、舘鼻氏の作品の特徴であり、複数のスタッフによる工房制で行われている。

作品を見たときに何を感じるかが重要。展覧会自体が紡ぐストーリーを紐解いて欲しい

展覧会のタイトルにもある“リシンク”は、舘鼻氏の創作概念と共鳴するワードでもあるが、舘鼻氏が考える“リシンク”とは何か。

「創作活動における創出のプロセスがまさにそうなのです。鑑賞者が答えを見出そうとする行為、それが一つのアートの役割。今回のプロジェクトでいうと、過去の日本文化を見直し、現代にどう表現し繋げていくか、それを見て皆さんは何を感じるか、鑑賞者が答えを自然と考察するような“問題”を提起することが僕の仕事だと考えます。今展覧会にも、未来から始まり、現代、過去を往来できるようなストーリーが用意されています。ぜひそれを体感して、自分なりに紐解いていってほしいですね」。

舘鼻氏から問いかけられる“アート”という問題提起。そこにどのような伝統産業の未来が見えるのか、大いに期待したい。

Photo by Satomi Yamauchi

Top Photo:南青山に構えるアトリエにて今回の取材が行われた。