“用途”と“美しさ”を兼ね備えるだけでなく、物との繋がりや敬意の象徴として古くから人々に愛されてきた組紐(くみひも)。その技術を伝える「龍工房」の組紐に、日本の奥深い伝統美が見える

“用途”と“美しさ”を兼ね備えるだけでなく、物との繋がりや敬意の象徴として古くから人々に愛されてきた組紐(くみひも)。その技術を伝える「龍工房」の組紐に、日本の奥深い伝統美が見える

組紐とは、細い絹糸や綿糸を組み上げた紐で、「縁を結ぶ」「物と物を結ぶ」「人と人を結ぶ」など、さまざまな意味合いが込められている。最近では、世界的ヒットとなった映画「君の名は。」にも登場し、主人公が組紐を通して繋がりを感じるシーンが描かれた。綿密な職人技と、人の手の温もりあってこそ成立する組紐の魅力と、未来への挑戦とは。

使い手に対する尊敬の気持ちを持って編んでいく「組紐」。表裏一体の“用”と“美”が紡がれる

組紐には結ぶという“用”の部分と、“装飾美”という美しさが常に備わっている。平安期には“美”としての用途が強く、権威の象徴として、貴族の正装である束帯に使われる。一方、武士の時代には、“用”の最たるものとして、刀の滑り止めに使われていた。しかも刀が名刀であった場合、素晴らしい組紐でなければ名刀の価値が下がってしまうとされていたため、実用性と美しさを両立した組紐が求められた。まさに組紐は、用途だけでなく芸術としての美を兼ね備えるものとして、日本の「威厳」と「品格」を象徴する唯一無二の存在となった。その伝統を現代に受け継いでいる「龍工房」では、絹糸や染色にもこだわりを持っているそう。例えば特別なものを作るときに使用する草木染め。葉や根、実など、自然に還る天然素材を使うことで、肌に優しく、発色も優しい表現をする。春には桜、冬の時期なら落ち葉など、日本の四季折々を染める。“用”と“美”、さらに染色技法にも大事な意味が込められている組紐には、日本人の奥ゆかしさが感じられる。

“用途”と“美しさ”を兼ね備えるだけでなく、物との繋がりや敬意の象徴として古くから人々に愛されてきた組紐(くみひも)。その技術を伝える「龍工房」の組紐に、日本の奥深い伝統美が見える

組紐の魅力はなんといっても、組みと呼ばれる編み目の緻密な美しさ。

“用途”と“美しさ”を兼ね備えるだけでなく、物との繋がりや敬意の象徴として古くから人々に愛されてきた組紐(くみひも)。その技術を伝える「龍工房」の組紐に、日本の奥深い伝統美が見える

草木染めの元となる素材はさまざま。四季折々の自然な色合いが表現される。

今まで誰も作ったことがないものにチャレンジし、進化させることも、伝統技術を守っていくことなのだと思い知らされた

「江戸東京リシンク」展では、龍工房と舘鼻氏とのコラボレーション作品や、歴史的資料など、組紐の過去・現在・未来を感じさせる展示が見られる。組紐が示す伝統産業の姿とはなにか。まっすぐ綺麗に組み味を揃え、手の温もりや空気を一緒に組み込んでいく。職人は、今でも「もっと上手くなる、もっと上手くなる」と、常に最高な形を求め続け仕事に取り組む。そんな中で、時代の変化に合わせながら、これまで繋いできた思いやこだわり、変わらない技術を継承していく義務がある。龍工房の組紐職人福田氏はいう。

「単にまっすぐな紐を作るだけでなく、今の時代でも使っていただけるものを作らなければならない。息子の代からは、必ず正面で使うと思ってきた丸台を、90度にして使うとか、伝統技術の掟を変えたものづくりをしていくことが新発見につながる。今がチャンスと捉え、伝統技術を守るために、あえて新しいものづくりをしていく必要があるのだと思い知らされました」。

“用途”と“美しさ”を兼ね備えるだけでなく、物との繋がりや敬意の象徴として古くから人々に愛されてきた組紐(くみひも)。その技術を伝える「龍工房」の組紐に、日本の奥深い伝統美が見える

複雑な柄や形は、職人の手仕事によって巧みに生み出される。

何事も一つのことを思い、長く続けることは、想像以上に大変なことだ。しかし龍工房では、これまで時代の変化やさまざまな苦悩がありながらも、それを乗り越え、伝統産業を今でも守り続けている。「常にワクワクしている」と語る、その組紐に対する熱い思いこそが原動力になっているように感じた。職人の仕事に対する姿勢や組紐そのものの背景、全てがあるからこそ今でも評価されている伝統工芸品なのだ。

Photo by Satomi Yamauchi