独特な色に輝き、魅惑的な表情を魅せる“紅”。伊勢半本店がこれまで守り抜いてきた紅が、アートの世界で花開く

独特な色に輝き、魅惑的な表情を魅せる“紅”。伊勢半本店がこれまで守り抜いてきた紅が、アートの世界で花開く

伊勢半本店は“日本最後の紅屋”として、ずっと紅文化を守り発信してきた。今作品では現代アーティスト舘鼻則孝が“紅”の違った側面を見せることにトライしている。現代だから表現できた、紅の新たな魅力と舘鼻氏の作品に込められた思いとは。

日本文化が培ってきた“紅”。その積み重ねてきた価値を感じてほしい

紅とは、紅花の花びらに含まれる、わずか1%の赤い色素を、高度な職人技術によって抽出したもの。その魅力は、良質な紅の証である自然が生み出した独特な玉虫色。その輝きは、温度や湿度によって時間の経過とともに変化するため、同じ色味にとどまることがないとされている。日本の歴史の中では、紅の赤は太陽や炎、血色を連想させることから、生命を象徴するものとして、装飾用だけではなく魔除けにも使用されていた。さまざまな表情を魅せる紅は儚く、その一瞬を表すものとして、多く人々を魅了してきたのだ。今回、舘鼻氏は、このいろいろな意味合いを備える“紅”を使い、何を表現しようとしているのか。

独特な色に輝き、魅惑的な表情を魅せる“紅”。伊勢半本店がこれまで守り抜いてきた紅が、アートの世界で花開く

ガラスに塗られた紅は、光の当たり具合によってさまざまな表情を魅せる

紅は化粧に象徴されるように、何かを惹きつけるもの

今回作品に使用されるのは、伊勢半本店の紅。日本最後の紅屋といわれるように、これまで伝統を守り続けてきた老舗だ。紅の歴史は古いが、日本でそれが広く普及したのは、江戸時代の一般女性が、自分を美しく見せる手段として活用したからだろう。現代では考えられないが、その当時のメイク道具には、白粉の“白”、墨の“黒”、そして紅の“赤”しか使えるものがなかったため、色彩を持つのは紅だけだった。そのため、唇だけでなく、アイシャドウやチーク、白粉前のコントロールカラーなど、さまざまなアイテムに活用されていた。きれいになりたい女性ごころを満たしてくれる紅という存在は、まさに女性を象徴するものである。現代そして未来になっても失われることのない美への探究心、人を惹きつける魅力が紅にはある。

独特な色に輝き、魅惑的な表情を魅せる“紅”。伊勢半本店がこれまで守り抜いてきた紅が、アートの世界で花開く

どれぐらい重ねるかによって、発色が変わってくるのも味わいの一つ。

生き生きとした“紅”、新たな紅の姿を見せたい

今回のコラボレーション先品について、舘鼻氏はこう話す。
「紅の魅力でもある“玉虫色の輝き”に注目し、意趣の異なった二つの作品を通して、これまでの紅とは違った側面を表現してみようと思います。一つは、僕の作品シリーズでもある、絵画の遠近法における“消失点”を主題としたもの。これは工業的な素材とそれを重ねたときに発生する図像の屈折を応用した表現方法です。“消失点”とは、僕の創作活動の中でも大きな役割を担っているもので、自分と他人、記憶と現実、生と死など、さまざまなテーマに対して、一対の視点を定め、その境界線を様々なモチーフを用いて表現します。。紅は生命を象徴する意味合いがあるので、その共通する部分を作品として表現できたらと思っています」。

独特な色に輝き、魅惑的な表情を魅せる“紅”。伊勢半本店がこれまで守り抜いてきた紅が、アートの世界で花開く

この独特な玉虫色の輝きが良質な紅の証である。

「もう一つの作品は、革に紅を染め付け、あの独特の玉虫色を用いてヒールレスシューズを作りたいと考えています。これがうまくいけば、本物の紅の象徴でもある自然な色合いを強調できるので、時代を経て受け継がれてきた魅力を、また違ったかたちで提案できるかなと。今作品を通して、紅が持つ継承されるべき文化的な背景と職人の技を現代に再発見してもらえたら嬉しいです。」。
紅文化と舘鼻氏の思いが重なることで、紅は“単なる赤ではない”ということが再認識できる。他では決して見ることができない、あの魅惑の輝きをぜひ目の前で感じてほしい。

Photo by Satomi Yamauchi