新旧の春画が醸す、時代を超えたエロス。

新旧の春画が醸す、時代を超えたエロス。

2013年に大英博物館で開催され、大きな評判を呼んだ春画展。日本では長く春画はタブー視されていたが、2年後に永青文庫で日本初の春画展が開かれた際は異例の大盛況を博し、アートとしての春画の認知度が高まるきっかけとなった。
 そして令和3年3月、新たな春画展が話題を呼んだ。南青山・スパイラルルームで開催された「現代春画考『春ごもり』須川まきこ+鳥居清長」だ。これは、現代の女性作家による“令和の春画”と、江戸時代の春画の名作を同時に展示するというもの。
 主催者の高橋工房は、江戸木版画の「摺師」と「版元」を兼ねるアトリエとして、数々の浮世絵の名作を現代に蘇らせてきた。数年前からは、理事長を務める江戸木版の組合員と共に日本三大春画のひとつと称される、鳥居清長の『袖の巻』の復刻にも挑んでいる。
「常々春画も手がけたいと思っていたところ、大英博物館の春画展で『袖の巻』に出会ったのです。“春画は品のよさが大切だ”という父の教えがずっと念頭にあり、この作品を見て“これだ!”と奮い立ちました」と、代表の高橋由貴子氏は語る。背景や小道具を極力排除し、細長い大胆なトリミングで男女の交わりにフォーカスしたこの春画に、ふたりの関係性や湿度まで匂わせる文学的要素を感じたという。

新旧の春画が醸す、時代を超えたエロス。

全12図のうち6図の復刻が摺り上がり、発表の場を考えていた折に、某プロデューサーの発案で現代作家の春画と併せて展示する案が浮上。国内外で活躍するイラストレーターの須川まきこ氏に白羽の矢が立った。
「凜として品のある作風に惹かれました。見る人の想像力を喚起してほしいと思い、彼女にも余計な要素は排除してほしいと伝えました」
 登場人物もあえて女性ひとりにしてもらい、出来上がったのはまさに現代の春画。たとえば、目隠しされて横たわる半裸の女性の傍らにスマホがある絵では、要素が少ないがゆえにさまざまな妄想が膨らむ。繊細なレース使いは須川作品の特徴だが、ここは江戸木版画の技術の見せ所でもあったという。
「新旧の春画を同時に展示したことで相乗効果があり、時代を超えたエロスを感じていただけたと思います」と高橋氏が語るように、会場は連日、若い女性やカップルで賑わった。今後はさらに、第2弾,第3弾の現代春画展も開催したいという高橋氏。その根底には、「春画という文化を広く伝え、伝統に培われた技術を次世代に継承していきたい」という熱い思いがある。

新旧の春画が醸す、時代を超えたエロス。

■作品名上から
鳥居清長『袖の巻 手習ひ』

鳥居清長『袖の巻 揚帽子の奥女中』

須川まきこ作品 『春ごもり(スマホ)』
画/須川まきこ 
伝統手摺り江戸木版画  彫12度 摺14度
彫師:馬場沙絵子 摺師:早田憲康 企画・制作:東京 高橋工房