落語と料理に通じる、つなぐべき伝統文化の“幹”とは。落語と料理に通じる、つなぐべき伝統文化の“幹”とは。

落語と料理に通じる、つなぐべき伝統文化の“幹”とは。

江戸から現代の東京に受け継がれる伝統文化や職人技に再び焦点を当て、その真価を国内外に広く発信していく「江戸東京きらりプロジェクト」。そのモデル事業のひとつとして選出されているのが、日本の食文化を次世代に伝えていこうと、総本家 更科堀井9代目の堀井良教さんや江戸懐石近茶流嗣家の柳原尚之さんらが名を連ねる「日本料理アカデミー東京運営委員会」の活動だ。江戸料理に詳しい柳原さんが、創業230年を数える更科堀井の小上がりに落語家の柳亭市弥さんを招き、江戸文化の奥深い魅力について語り合った。

※[PEN]12月15日号より抜粋

落語と料理に通じる、つなぐべき伝統文化の“幹”とは。

常に変わらないものと、時代とともに変わるもの。

柳原:  そば前のつまみといえば鳥焼や玉子焼が定番ですが、これらの共通点はわかりますか?
市弥: なんでしょう? 味付けは醤油に、みりんに、お砂糖……。あっ、そばつゆを使うということですか?
柳原: その通りです。醤油、みりん、酒、酢、味噌といった日本食特有の調味料は、江戸時代の後期から一般家庭に出回るようになったのですが、醤油とみりんと砂糖から作られるそば屋の“カエシ”に代表されるように、日本料理は昔から簡単に応用がきく料理として発展してきたのです。
市弥: カエシの味がその店全体の味を決めているんですね。

落語と料理に通じる、つなぐべき伝統文化の“幹”とは。

柳原: 新しいカエシを継ぎ足しながら代々受け継いでいくことも多いですが、実は必ずしも同じレシピを守り続けることが重要であるとも限りません。近茶流でも、昔のレシピを再現したら、現代の感覚では塩気や甘さが強すぎるということも多々あります。
市弥: 落語でも、大師匠の古典落語をそのまま正確にやりたいと思っても、いまではあまり耳慣れない言葉もあり、若いお客さんはポカンとしてしまうかもしれません。いちばん大切なのは、正確さよりも“幹”となる基本の部分で、そこをしっかりと押さえていれば、どんな“枝葉”をつけても本筋の通ったよい芸になるんだと思います。
柳原: そうですね。日本料理でいえば、その“幹”に当たる部分は間違いなく出汁だと思います。よい出汁が取れていれば、多少塩が少なくても、逆に塩が少し多くても、大きく味が崩れることはありません。
市弥: 落語でも料理でも、受け手側の好みは時代によって変わっていくもの。だからこそよい出汁を取って、自分だけのカエシを見つけて、寄席を見に来たお客さん全員に“うまい”と思ってもらえる噺家になりたいです。

落語と料理に通じる、つなぐべき伝統文化の“幹”とは。

近茶流嗣家・柳原尚之
1979年、東京都港区生まれ。江戸懐石近茶流嗣家、柳原料理教室副主宰。日本料理、茶懐石の研究・指導に当たるかたわら、日本食を通じた子どもたちへの食育や、海外に向けた日本食文化の振興活動を行う。

落語と料理に通じる、つなぐべき伝統文化の“幹”とは。

落語家・柳亭市弥
1984年、東京都世田谷区生まれ。大学卒業後、広告代理店に就職するも、寄席通いを続けるうちに現在の師匠である柳亭市馬の落語と出合い、2007年に入門。12年に二ツ目に昇進。テレビや雑誌への出演も多い若手のホープ。