子どもたちに伝えたい、固定種ならではの葱本来の魅力
2023.02.17
FOOD薬味として食べれば、ツンとした辛味が蕎麦の風味を引き立て、鍋や焼き葱など熱を加えた料理に使えばトロリと柔らかくなり、果物に劣らない甘味が口の中に広がる——。葱本来の旨味や辛味が凝縮された「江戸千住葱」は、その名の通り江戸時代から愛されてきた固定種の葱。だが、栽培が難しく大量生産に向かないこともあり、昭和50~60年以降には市場から姿を消してしまった。
この江戸千住葱を復活させるために立ち上がったのが、明治期から続く葱専門業者・葱善4代目の田中庸浩さん。栽培農家の協力を得て、10年以上の試行錯誤の末に伝統の栽培方法を復活させることができたという。
江戸時代から伝わる食文化を現代に、そして未来に伝え続けていくため、葱善では食育にも力を入れている。「子どもたちにおいしい葱を食べさせたい」というリクエストを受けて、2009年から地元の台東区の小学校で、専門業者を通して学校給食用に江戸千住葱を提供。この取り組みが評判を呼び、現在では区内、区外の約50の小中学校にまで提供が広がっている。
「給食メニューでいちばん多いのは焼鳥丼。ほかにも、葱塩豚丼やねぎま汁、豚汁、うどんなど、さまざまな料理で使われています。火入れすると甘く柔らかくなるので、子どもたちにも喜ばれていると聞きます」と田中さんは語る。
また、台東区の千束小学校と蔵前小学校では、江戸千住葱の栽培授業も行っている。均一に育つ交配種と違い、固定種の千住葱は太さもいろいろ。太いものは鍋に、中くらいのものは蕎麦の薬味に、細いものは焼鳥に使うことを教え、「子どもたちもそれぞれの個性を大事にしてほしいと伝えています」
まずは春に種まきをして苗をつくり、畑に植え付けて育て、冬に収穫したら皆で味噌汁に入れたりして味わう。「種が芽吹いた時の、命が生まれた喜びや大切に育てていこうという気持ちは、子どもたちにとって大事な学びです。葱が苦手だった子も、収穫後においしいと食べてくれる。自分たちで育てていくうちに愛着が湧くからでしょうね」とうれしそうに語る田中さん。未来を担う子どもたちに固定種の葱の魅力を伝えていくため、さらに多くの学校へ取り組みを広げていきたいという。