立ち飲みスタイルで発信する、江戸の粋な食文化。

立ち飲みスタイルで発信する、江戸の粋な食文化。

 居酒屋の語源は、江戸時代に遡る。従来は酒屋で量り売りされる酒を自宅で飲むのが一般的だったのが、買った酒を店頭で飲む常連客が増えたことに伴い、つまみを出す酒屋が増えていった。そうした居酒屋のルーツと言われるのが、1596年(慶長元年)創業の豊島屋本店。東京最古の酒舗兼立ち飲み居酒屋として歴史を紡いできた。関東大震災以来、長らく飲食は休業していたが、神田に昨年「豊島屋酒店」をオープンし、約一世紀ぶりに創業の商いを再興。江戸の食文化をモダンに発信する立ち飲み処として評判を呼んでいる。

 人気の秘訣は、多彩な料理と酒を手頃な価格で楽しめること。江戸時代の料理を現代風にアレンジした「江戸伝承メニュー」と、新たな提案を行う「東京モダンメニュー」、どちらも日本酒との相性は抜群だ。たとえば、豆腐も味噌も江戸前にこだわった「豆腐田楽」は、江戸時代の豊島屋で一番人気だったつまみの現代版で、深みのある味わいの味噌ゆえお酒が進む。

 新たな提案では、チーズと日本酒のペアリングが好評だ。チーズを使ったつまみも創意に富み、「甘納豆マスカルポーネ」の甘じょっぱい味わいは辛口の酒と好相性。日本酒はすべて同社の酒蔵である豊島屋酒造が醸しており、精通したスタッフに、つまみと酒のおすすめの組み合わせを教わるのも楽しい。
「お陰様でリピーターになっていただける率が高く、若い方や外国人のお客様にも、江戸の粋な食文化を感じていただけるきっかけになっています」と、吉村俊之社長は語る。

立ち飲みスタイルで発信する、江戸の粋な食文化。

 せっかちな酒飲みにうれしいのが、日本酒の自動販売機があること。60mlで300円というリーズナブルな価格のうえ、コインの投入後に3種類から選んでボタンを押すだけという手軽さが人気だ。今年の3月からは、月々の定額制でおつまみやお酒のサービスが毎日受けられる、サブスクリプションサービスも開始した。伝統を守りつつ常に新たな試みを取り入れる姿勢は、豊島屋の行動指針でもある。

 「“不易流行”、つまり「守るべきは頑なに守り、変えるべきは大胆に変える」ことを旨としてきました。これからも、伝統に新たな息吹を吹き込む気概を忘れないようにしていきたいと思います」

立ち飲みスタイルで発信する、江戸の粋な食文化。