江戸の人々の足元を彩る「草履」から、世界の人々を彩る「ZORI」へ。 四谷三栄の新たなる挑戦

江戸の人々の足元を彩る「草履」から、世界の人々を彩る「ZORI」へ。 四谷三栄の新たなる挑戦

オリジナルの草履と下駄で知られる「四谷三栄」が、洋装用草履「ZORI」を意欲的に開発している。その試みの一つのが、フランスの「アトリエ・ド・パリ」とのコラボレーションだ。

フランス人の足型に合わせた幅広の台は、歩きやすいよう、軽いコルクを積み上げて形作ってある。その表面を、少ししぼの残る柔らかな牛革で覆い、側面と鼻緒には、樹皮繊維を織り上げた伝統布「しな布」を用いた。
デザインを担当した「アトリエ・ド・パリ」のルーシー・トゥーレさんは、テキスタイルやペーパーを素材とした作品を多く発表している。

「ルーシーさんに指摘されたのが、エナメル革だと綺麗すぎて、フランスではプラスチックに見えてしまう、と。それで、しぼをあえて残したなめし革を使いました」と「四谷三栄」三代目の伊藤実氏が振り返る。

江戸の人々の足元を彩る「草履」から、世界の人々を彩る「ZORI」へ。 四谷三栄の新たなる挑戦

「四谷三栄」は、その履き心地とセンスで、和装を愛する人々に応えてきた。それでも今回は、今までにない苦労があったようだ。
「草履の形をした別ものを作るのではなく、草履の文化を手渡さなければ、と思いました」
草履は指の股を開いて履き、鼻緒と甲を密着させて留める。サンダルと異なり、鼻緒のスゲを緩めたり締めたりして、一人一人の足に合わせた履き心地を追求できる。この「履き心地」を感じてもらうことで、草履の文化を伝えることになる。

最も違いを感じたのが制作過程だという。草履作りはアナログだ。設計図はなく、実際に手を動かして実物見本を作っては戻し、作っては戻しを繰り返す。指先で触り、目で見て、足を入れる。五感でやり取りするからこそ履き心地も極めることができるのだ。
データでのやりとりに限界を感じた伊藤氏は、実物見本をコーディネーターに託し、パリへ向かってもらった。結果としてそれは、パソコンで描かれた設計図よりもずっと、ルーシーさんの五感に響くものとなった。その後のやりとりはより端的で、具体的になったという。

今年1月の発表会で、「ZORI」は驚きを持って迎えられた。見た目の斬新さ、ドレスと合わせた時の美しさ、何よりもその履きやすさ。発表会の後も海外から次々とメールが舞い込んだ。
「洋装用の草履はまだ始まったばかり。今後はコラボや交流の幅を拡げ、さらに新しいZORIを生み出したい」と伊藤氏は考えている。