日本人のツヤ髪を支えてきた、本つげ櫛を未来へ
万葉集にも詠まれるほど、古くから髪の手入れに使われてきたつげ櫛。さまざまな髪型が流行した江戸時代には、結髪に添えるアクセサリーとしても流行し、プロポーズの際に男性から女性へ櫛を贈る習慣もあったという。町人の文化が花開いた元禄文化の最中、享保2年(1717年)に本つげ櫛専門の細工処として創業したのが、よのや櫛補の前身。当時は、髪結や床山といった理髪専門の職人に櫛を卸しており、明治以降は一般への小売も行うようになっていった。
現在の店を守るのは、店主齋藤悠さん。つげ櫛には、西日本の南のほうで育ち、櫛に適したほどよい固さと弾力がある本つげが用いられる。よのやで使うのは、本つげの中でも最高級とされる鹿児島産の薩摩つげ。伐採後に乾燥と蒸しを繰り返して水分を抜いたものを、櫛形に切り出し、その後は店内の作業場で齋藤さん自ら歯削りや磨きなどの最終工程に携わる。髪通りが滑らかで頭皮へのあたりがやさしくなるよう、仕上げは入念に行い、最後に椿油の中に1週間ほど漬け込んで完成させる。こうして出来上がったつげ櫛は、静電気が起きにくく、櫛に染み込んだ椿油が髪に潤いをもたらし、頭皮へのマッサージ効果も高い。長年の愛用者からも、自然なツヤ髪になると評判だ。
使い込むうちに飴色になっていく経年変化が楽しめるのも魅力のひとつ。定期的に椿油を馴染ませてブラシで歯を掃除するといった手入れをすれば、一生ものの道具として使うことができるという。
「お祖母さん、お母さん、娘さんと、3代にわたって愛用してくださるお客様も少なくありません。髪にも環境にもやさしいのが本つげ櫛。“櫛を通す”という日本人ならではの文化を次世代へ伝えていけるよう、よのやの屋号に恥じないものづくりを続けていきたいです」