団扇や扇子を通じて、江戸の粋を国内外へ発信
創業は天正18年(1590年)。400年以上の歴史を誇る「伊場仙」は、団扇と扇子の製作販売を行う老舗として、数多の江戸っ子たちに愛されてきた。創業当時は和紙や竹を幕府に納める御用商人だったが、付加価値を高めるため、江戸中期にはそれらを材料として団扇や扇子の製作を開始。浮世絵を団扇に貼り付ける団扇絵が流行した江戸後期には、初代歌川豊国、歌川国芳、歌川広重といったそうそうたる顔ぶれを起用した団扇が人気を博す。こうして、浮世絵の版元としても躍進した伊場仙は、現在も江戸文化の継承に力を入れている。
取り扱い商品の中でも、伊場仙らしさが際立つのはやはり江戸団扇と江戸扇子。本体と柄を別々につくる京団扇と異なり、一本の竹を割いて仕立てるのが江戸団扇の特徴だ。豊国や国芳などの団扇絵で使われた貴重な版木をもとに印刷、制作した大ぶりの団扇は、部屋に飾るアートとしても好評だ。
いっぽう、江戸扇子の特徴は、太めの骨で骨数が少なく、折り幅が広いこと。細い骨をたくさん使い、優美な絵柄が描かれた京扇子に対し、小紋柄や文字など、シンプルで大胆な“江戸の粋”を表現したものが多い。たとえば、波千鳥などの吉祥文様や、“うまくいく”を表す九頭馬など。団扇と同じく、浮世絵をあしらった扇子も伊場仙らしいラインアップだ。
江戸の文化を広く発信していくため、伊場仙では新たな取り組みにも着手している。ひとつは、浮世絵と漫画とのコラボレーション。藤子・F・不二雄の生誕80周年の2014年には、ドラえもんが浮世絵の世界に入り込んだコラボ団扇を制作したこともあり、今後も浮世絵と現在の日本文化との競演に意欲的だ。また、メタバースを使った浮世絵のVR美術館の公開や、NFTの技術を使った商品販売も開始。新たなアプローチで、国内だけでなく海外への積極的な訴求を目指す。