【若き担い手たち】技術と対話力で土屋鞄製造所を牽引する次世代リーダーの挑戦【若き担い手たち】技術と対話力で土屋鞄製造所を牽引する次世代リーダーの挑戦

【若き担い手たち】技術と対話力で土屋鞄製造所を牽引する次世代リーダーの挑戦

1965年にランドセルづくりからその歴史が始まった土屋鞄製造所。ものづくりへの情熱を抱き、2019年に同社に入社した下田歩さんは、ランドセル製造への強い思いとチームとしてのものづくりを追求し、わずか5年で最年少のランドセル製造組立リーダーへと昇進しました。良いものを作るために、職人が主体的に動く体制を整えたいと、職人たちと対話を重ねながら生産体制を変革してきた下田さんの次なる目標とは?


ランドセル製造は、革の裁断から各パーツづくり、組み立て、まとめといった工程ごとに班が編成されています。入社後、ランドセルの肩ベルトの制作班に配属された下田さんは、同年には班長補佐、そして班長に就任し、2024年4月には3つの組立班を統括するリーダーへと駆け上がりました。その道のりは、伝統あるものづくりを受け継ぎながら、チーム全体の変革を促す挑戦の日々でした。

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下田さんは、職人たちの意見に耳を傾け、自ら率先して行動することで、一つひとつの課題をクリアしているそうです。


下田さんがもっとも大切にしているのは、チームとしてのものづくりです。そのため、リーダー就任後にまず着手したのが、部署内のコミュニケーションの活性化でした。

「毎月、意図的に部署全体で話し合いの場を設けるようにしました。最初は戸惑っていた職人たちも、回を重ねるごとに『すごく楽しかった』『自分の仕事の意味を感じられる』と前向きに捉えてくれるようになりました。今では班の枠を超え、パーツ組立部など他部署との交流も活発になり、職人たちのモチベーション向上につながっています」

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ひとつのランドセルを作るために必要なパーツの数は150以上。それらを職人たちが丁寧に組み立てていく。


さらに、下田さんはランドセル製造のピーク時を見据えて、生産方式も見直しました。たとえば、作業場の物理的な距離を縮めて移動の手間を減らしたり、1人1工程だった作業を3工程まとめて行ったり、職人たちと相談しながら改善を進めていきました。その結果、製造効率は向上し、目標となる年間の製造数も見事にクリア。また、こうした生産体制の効率化は、職人の身体的な負担の軽減や、ランドセルの品質向上にもつながったといいます。

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子どもたちにとってランドセルは小学校生活の6年間にわたって使う大切な道具。土屋鞄製造所では40色以上の豊富なバリエーションで多様なニーズに応える。


少子化やナイロン製リュックの普及などでランドセル市場が変化する中、下田さんは「長く続けてきたことに必ず意味がある」と信じ、土屋鞄製造所が培ってきた技術だけでなく、価値観や文化も次世代に伝えていくことが重要だと話します。

「そのためにも後進育成は大きな課題です。今後は、私だけでなく、もっと多くの女性リーダーを育てたいと思っています」

土屋鞄製造所は、これまでも未経験者や新人を積極的に採用し、後継者育成に力を入れています。特にその製造技術部門では、定期的に班の人員を入れ替える取り組みが実施されています。これは社員が約300にも及ぶランドセル製造のさまざま工程に携わることで、多様な技術や考え方に触れる機会を設け、技術力の向上だけでなく、個人の成長や挑戦を促すための試みだそうです。

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もっとも難しい工程のひとつが、組み立てたランドセルを縫製する“まとめミシン”。絶妙な力加減が求められるため、以前は限られた職人のみが担当していたが、育成が進んだ今は多くの職人がその技術を受け継ぐ。


これまでは1年という区切りで行ってきた班の人員入れ替えを、現在は個々の成長段階に合わせ異動の時期を早めることもあるそうです。そうすることで一人ひとりの希望にも寄り添った多様で柔軟なキャリアパスを構築することができるようになりました。また、下田さんのような若い人材をリーダー職に登用するなど、年齢や性別にかかわらず、誰もが挑戦しやすい環境が整えられています。だからこそ、職人たちの間では新たな挑戦をポジティブに捉える意識も芽生えているそうです。

下田さんは、仕事場としての土屋鞄製造所の魅力をこう伝えてくれました。「みんなが自社製品に愛情と自信を持ち、多様な分野で力を発揮できる環境があることです。まだまだ改善の余地はありますし、口頭伝承になりがちな技術の可視化にも取り組んでいきたいと思っています。そして、チームとしてお互いに頼り合える関係性をさらに築いていきたいです」

【若き担い手たち】技術と対話力で土屋鞄製造所を牽引する次世代リーダーの挑戦
現在、30人の職人たちを統括する下田さん。チームとして一体感が味わえることが仕事のやりがいにもつながっているという。




【若き担い手たち】は、東京に代々受け継がれてきた匠の技術やノウハウを未来に繋ぐ若き職人やスタッフに焦点を当て、彼らがこの道を選んだきっかけから日々の仕事内容、そして将来への展望を深掘りしていきます。