道明からDOMYOへ。組紐の可能性を追求する10代目の挑戦道明からDOMYOへ。組紐の可能性を追求する10代目の挑戦

道明からDOMYOへ。組紐の可能性を追求する10代目の挑戦

上野に本店を構える組紐の名店、道明。創業から360年を超える老舗の10代目を務める道明葵一郎さんには、経営者としてだけでなく、もうひとつの顔があります。それは一級建築士としての顔。まるで共通点などなさそうに見えるふたつですが、組紐と建築には通じるものがあると道明さんは言います。

「組紐と建築は、構造とデザインが表裏一体に絡み合っているところが近いと感じます。織物や編み物に比べて、組紐は糸の動きが実は立体的で、出来上がりは一本の線ですが、上下裏表とあいだをすり抜けながら、表に出てきたところが模様になります。その組織の構造を理解していないとデザインができないのです。同様に建物にも荷重を支える柱や梁があって、その構造的要素を活かしながら美しい空間をデザインしていきます。それぞれ密接に絡み合っているという意味で、非常に似ていると思います」

上野の本社ビルと神楽坂の店舗は、自らがデザイン設計を担当。とくに本社ビルは、最上階の資料庫、4階の染場、3階のデザイン室、2階の工房、1階の店舗と階を下るごとに組紐の製作工程が進んでいく、組紐を作る道具のような建築として構想されました。組紐と建築に精通した道明さんならではの感性が遺憾なく発揮されています。

道明からDOMYOへ。組紐の可能性を追求する10代目の挑戦
左:伝統的な器具を使って組紐を組んでいく職人。右:道明さん自身が設計を手がけた上野本店。


「大量生産ができないという意味でも、組紐と建築は共通しています。組紐というと、帯締めという印象がありますが、工芸品としても非常に美しいものです。そこで、必ずしも用途を絞る必要はないのではないか、現代に合わせて洋装にも使えるアイテムをつくろう、という試みで始まったのが『DOMYO』ブランドです」

この日、道明さんが身につけていたネクタイも、組紐でつくられたもの。組紐と言えば細いイメージがありますが、先々代の社長の時代に「増し玉」という技術を考案したことで、だんだんと幅が広がっていくネクタイをつくれるようになったのだそうです。海外の展示会でも、「今まで見たことも触ったこともない」「新鮮」という好意的な反応が多く、日本のクラフトマンシップに対する信頼性も後押しして、特にネクタイや大ぶりなアクセサリーなどが人気を博していると言います。

こうした新たなアイテムを製作するためにも、若手の人材育成が急務であると語る道明さん。工場では現在100人ほどの職人を抱えていますが、特注品や新ブランドの商品を製作するために、もっと数を増やしたいと話します。

「職人に対しては、技術力の向上のための勉強会を開いたり、職場環境を良くしたり、無理なく続けられるよう工夫しています。また、今年で56年目を迎える組紐教室の生徒さんからも、弊社の職人になった方がいらっしゃいます。伝統を絶やすことのないよう、工芸の裾野を広げていきたいと考えています」

道明からDOMYOへ。組紐の可能性を追求する10代目の挑戦
株式会社道明代表取締役社長の道明葵一郎さん。手を動かすことが好きで、「今は革製品をつくる教室に通っていて、自分で財布をつくりました」。


新しい製品を生み出すためにも、組紐の歴史や理論を踏まえたうえでつくっていく必要があると、道明では古い組紐の復元や研究を100年以上も前から行っています。さらに、世界進出にあたっては、従来の動物由来のシルク素材ではない、非動物性の素材が求められることもあるため、素材や技術の制限をかけずにさまざまな挑戦をしていきたい、と道明さんは語ります。

「最終的には、東京発の世界に通用するブランドを育てていきたいと思っています。そのためには、あえて従来のルールから逸脱するものも取り入れながらやってみたいですし、試行錯誤していく必要はあると思います。たとえば、組紐と革製品とのコラボレーションをしたり、さらには服一着丸ごと組紐でつくったり、巨大なオブジェやインスタレーションにも挑戦してみたいですね」

いずれヨーロッパの老舗メゾンのように、世界中どこへ行っても知られているようなブランドにしたい──「DOMYO」の今後について語る道明さんの目は輝いています。

道明からDOMYOへ。組紐の可能性を追求する10代目の挑戦
左:多様な柄と色とりどりの帯締めが並ぶ。右:組紐のアクセサリー。