
FYSKYのブランドディレクターが描く、 革職人とともにつくる未来
2026.02.03
FASHION吉祥寺にアトリエを構える、オーダーメイドの革靴を手がける FYSKY。代表であり職人の井出洋輔さんとともにブランドを支えるのが、同社の取締役も務めるブランドディレクターの石黒哲さんです。「僕は職人ではない側の人間だからこそ、職人が持つ技術や生み出されるものの価値を社会に伝えることに興味がありました。FYSKYでは、井出が“つくる人”、僕が“伝える人”。役割が分かれているので、どちらの強みも最大限にいかせています」。広告代理店出身という経歴をもつ石黒さんは、職人の技術とものづくりの思想、FYSKYというブランドを最適なかたちで発信しています。
二人の出会いは、高校時代のバスケットボール部。OBとして練習に参加していた井出さんとの交流が社会人になってからも続き、いつしか“職人とブランドディレクター”という関係に発展していきます。「井出さんには折に触れて自分のブランドをもつべきだと言い続けていたのですが、ついにある日、井出さんが自分のブランドをやってみたいと相談してくれて、僕も広告の仕事でマーケティングやブランディングの分野で経験を積んでいたこともあり、一緒に挑戦してみようと思ったのです」。こうしてFYSKYは2022年にスタートし、井出さんと二人三脚でブランドを軌道に乗せていきました。


石黒さんは「伝えることもものづくりに不可欠な要素である」という考え方をもっています。作り手にどんなに優れた技術があったとしても、世に知られなければその仕事は続いていかないと感じているのです。「職人の仕事って、黙々と作るイメージがありますよね。技術が高く、情熱があったとしても、作ったものが必ずしも売れて生活していけるわけではありません。職人さんたちが夢をあきらめなくて済むよう技術やこだわりを社会にどう伝えるかを設計できれば、もっと多くの人に届けられると思うんです」。
そんな石黒さんがブランディングで大切にしていることは、ブランドのコンセプトを表現するメッセージや説明文を過剰に飾らず、事実をていねいに、誠実に伝えることです。「ブランド側が饒舌になりすぎないようにしています。自画自賛や、こちらの想いの押し付けをしたくないので、受け手が自由に感じ取れるよう、(メッセージやロゴなどデザインも含めて)余白を残すように意識しています」。

また、FYSKYは別ラインとして、革小物ブランド lllast(ラスト)を展開しています。lllastのはじまりは、FYSKYの革靴づくりの過程ででた上質な革の端を捨てるのはもったいないと井出さんが革小物を作ったことでした。イベント販売での反応も上々で売り切れるほどだったといいます。

「当初はFYSKYのロゴで販売していましたが、革小物とオーダーメイドの革靴では価格帯があまりに違うため、それぞれのブランディングや販売戦略を切り離し、独立したブランドとして運営していく判断をしました」と石黒さん。そして新たに三人の職人が仲間になったことをきっかけに、ものを作る人、技術と文化を守り、未来につないでいくことをミッションにしたlllastとしてリブランディングされました。FYSKYでは職人の高い技術とクオリティ、商品のディテール、お客様に寄り添う姿勢を伝えることを意識し、lllastでは、パッと見たときの親しみやすさや可愛らしさ、そして世界観を伝えることを、意識しているそうです。

FYSKYもlllastも高品質な革製品を作りながら、職人技術の価値を適切に伝え、持続可能なビジネスモデルを構築しました。さらに石黒さんと井出さんは、中長期的な成長を見据え、「江戸東京きらりプロジェクト」を通じて、オーダーメイド革靴ブランドから、革靴を中心に鞄・財布などの革小物を含む総合的なレザーブランドへの進化という新たな方針を打ち出しています。現在はその一環として、ブランド力強化、方針整理のためのガイドライン策定や、ブランド認知拡大や新規顧客獲得のためのパンフレット・動画制作に取り組んでいます。動画はすでにYouTubeで公開されており、FYSKYが提供するMade To Measure(MTM)サービスの内容やブランドの背景、そして二人の人柄まで伝わる構成となっていて、FYSKYの魅力をより深く理解できる内容になっています。
ブランドディレクターとしてクラフトマンシップの未来を切り開こうとしている石黒さん。「ブランドを立ち上げることは、誰もができることです。難しいのは、立ち上げたブランドを続け、育てていくことなんです。ブランドとして成長して、見本になるような立場になれたら、自分たちのノウハウを伝えられる日が来るかもしれないし、自分たちのブランドや革の業界にとどまらず、新しいことにも挑戦したいと思っています。そのためには自分たちのチームがまずしっかりと目に見える結果を出す必要があると思っています」。

長い歴史を持つ革靴作りの世界では、FYSKYはまだ若く新しい存在です。それでも、受け継がれ磨いてきた技術とものづくりの文化を大切にして、次の時代へつなごうとしています。 吉祥寺の小さなアトリエから生まれる新しい風が、やがて世界の舞台へと広がっていく。 FYSKYの歩みは、これからも続きます。
■FYSKY YouTubeチャンネル
「革小物をはじめたきっかけと、チームで制作することについて」