上質な生地と匠の手仕事から生まれる、一生ものの傘。
傘を開くと現れる、優美なシルエット。ぴんと張られた生地や丁寧な縫製が上質感を際立たせ、傘の先端から骨の関節まで、随所に使いやすさや丈夫さへの配慮が見て取れる。使うほどに職人の細やかな手仕事を感じさせるのが、小宮商店の傘だ。
創業は1930年。創業者の小宮寶将(ほうしょう)さんは、自身の出身地である山梨県の特産品であった甲州織の生地を使った洋傘づくりを始めた。甲州織は、山梨県の伝統的な織物で、染色を施した極めて細い糸を使い、高密度かつ均一に織り上げることで、艷やかな光沢と重厚感を併せ持つ生地となる。
日本の傘業界は高度成長期に最盛期を迎えたが、平成以降は安価な海外製品に押されて勢いを失ってしまう。そうした中でも、小宮商店は細部までこだわり抜いた本物志向の洋傘をつくり続けてきた。その技術が評価され、2018年には「東京洋傘」として東京都の伝統工芸品に指定されている。傘職人はもちろん、骨屋、手元屋、生地屋など、各パーツを担う職人がそれぞれ技術を研鑽してきた結果だ。
小宮商店の傘づくりは、ほとんどの工程をひとりの職人が手掛ける。最初に行うのは木型つくり。この型によって傘のフォルムが決まるほど、重要な工程だ。次に、型に合わせて生地を裁断し、生地を親骨の本数に応じて縫い合わせる。さらに骨の関節や束ねる部分を布で巻いて保護するという「ダボ巻き」や「ロクロ巻き」など、昔ながらの丁寧な手法を施し、一本の傘へと仕立てていく。手元をしっかり取り付けて完成するまで、一切妥協のない手仕事だ。
現在はさまざまな種類の生地を使っているが、甲州織の雨晴兼用傘「かさね」(レディース)と「橘」(メンズ)は小宮商店を代表するロングセラーだ。表と裏の色が違う色になるよう二重に織られ、裏の糸色を表の端に施したラインがアクセントになっている。正倉院に現存する日本最古の文様を西陣織で再現した「正倉院裂」、松や菊などの文様を型絵染めで表現した「伊砂文様」など、日本の伝統的なパターンを活かした商品も人気だ。傘をファッションの一部として末永く使ってほしいという想いは、創業当初から変わることはない。