万華鏡のように模様を映し出す、革新的な江戸切子。
底面に桜の花模様を刻み、側面に10箇所の平らなカットを施したぐい呑み。酒を注ぐと側面に模様が映り込み、グラスの中に満開の桜が咲き誇ったよう。ライトブルーの素地と金赤と呼ばれる鮮やかなピンクの桜が織りなす、美しい小宇宙に引き込まれる。
「サクラサク」という名のこのぐい呑みは、2014年に椎名隆行さんが立ち上げたガラス専門店・椎名切子(GLASS-LAB) の人気商品。家業である椎名硝子は、1950年に祖父が清澄白河で創業したガラス加工工場だ。二代目の父・康夫さんは、江戸切子の技術のひとつである平切子の匠。線を描くこと以上に、平らな面をつくる切子の技術は難しく、平切子職人は現在わずか10人ほどしかいないという。また、三代目である弟の康之さんは、サンドブラストのスペシャリストで表面に研磨剤を吹き付けてすりガラス状に彫刻を施す技で、桜の花模様のような繊細な絵柄を表現できる。康之さんは0.09mmもの極細線も描ける超絶技法の持ち主だ。
ふたつの技法を併せもつ工房は非常に珍しく、両者を掛け合わせた唯一無二の江戸切子を提案したいという思いから、椎名切子(GLASS-LAB)がスタート。底面にサンドブラスト加工の模様を彫刻し、側面に美しい反射を生み出す平切子を施すことで、水を注ぐと繊細な模様が万華鏡のように広がる、革新的な「砂切子」が誕生した。桜のほかにも、花火や紅葉、雪の結晶など、四季折々の風情豊かなモチーフのぐい呑みやオールドグラスなどを多数展開している。葛飾北斎の富嶽三十六景に登場する赤富士や大波をモチーフにしたグラスは、海外での人気も高い。
透明なガラスに色ガラスをコーティングする「色被せ(いろきせ)」も、江戸切子の魅力のひとつ。椎名切子(GLASS-LAB)ではライトブルー×金赤、蛍光イエロー×金赤など、色ガラスを多層にすることで、モチーフの美しさを最大限に引き出す加工を行っている。「使う人の“心揺さぶる”」をモットーに、椎名切子(GLASS-LAB)のものづくりは今後も進化し続ける。