
暖簾に新しい価値を。中むらのプロデューサーが編み直す、伝統のかたち
2026.03.30
LIFE暖簾は、日本の街並みや建物に自然と溶け込み、空間を構成する要素の一つとして受け継がれてきました。しかし、「暖簾にはもっと面白さや奥深さがあるのでは」と可能性を見出したのが、中むらの暖簾ディレクター・プロデューサー・中村新さん。施設の顔となる暖簾の企画・設計をはじめ、クリエイターとのコラボレーションにも挑戦しながら、暖簾の新たな価値を生み出し続けています。

暖簾の製作や印刷を行うサービスは数多くありますが、ディレクター・プロデューサーとして暖簾の企画から設置までを一貫して担う取り組みは、創業当時から今なお他にはないと中村さんはいいます。中村さんは、そうした役割を手探りで築きながら、暖簾の新たな可能性を探ってきました。
「暖簾を仕事にすると、想像以上に多くの視点が求められるんです。単に制作するだけでなく、その空間にどんな素材や色、絵柄、サイズが最適かまで考えなければなりません」。
仕事を重ねるなかで、中村さんは暖簾に込められた歴史や文化への理解を深めていったといいます。
「暖簾文化の発展は木綿の普及と密接に関わっています。江戸時代、丈夫で藍染めに適した木綿が広く用いられるようになり、藍染めの暖簾が商家の目印として広まり、町の景観形成にも寄与しました。そうした文化的側面を調べていく過程も仕事の重要な一部です」。
暖簾の面白さに気づいた中村さんは、中むらのオウンドメディア「のれん道」を立ち上げました。著名人や文化人などの各分野の専門家との対談や、自ら暖簾に関する記事の執筆を行い、暖簾の文化的価値を掘り下げながら国内外に向けて発信しています。

中むらへの相談は多岐にわたり、その取り組みは街づくりや空間づくりの分野にも広がっています。近年参加したプロジェクトの一つが、2025年に行われた東京都八王子市の景観創出プロジェクト「八王子桑都千景」内の暖簾企画「桑都のれんプロジェクト」です。甲州街道沿いを中心に約80店舗を藍色の暖簾で彩り、日本らしい景観づくりを目指した取り組みです。

一方で、現代に合わせて暖簾をさまざまな方法でアップデートする試みも精力的に行ってきました。従来使われなかった素材、革新的な染色技法、インクジェット印刷、クリエイターとのコラボレーションなど、その活動は暖簾の表現領域を大きく広げています。
「江戸東京きらりプロジェクトのモデル事業者でもある革靴店・FYSKYさんと一緒に牛革の暖簾をつくったり、感性に共鳴したクリエイターに声をかけて作品を生み出したり。新しい可能性を探ることもディレクターの役割だと思っています」。
こうした活動の大きな転機となったのが、江戸東京きらりプロジェクトへの参加だったといいます。
「江戸東京きらりプロジェクトで出会った他のモデル事業者や専門家の方々とのご縁が、本当に大きな財産です。伊場仙さんや伊勢半さんをはじめ、前向きに挑戦する方ばかりで、話していると自然とアイデアが広がっていきます。また、クリエイターや職人さんとの新たなつながりも生まれました」。
「海外の方にも日本の暖簾文化を知ってもらいたい」という思いから、江戸東京きらりプロジェクトを通して、毎年、パリで行われるフランス国際見本市『MAISON & OBJET PARIS(メゾン・エ・オブジェ パリ)』にこれまで4回出展。そのおかげで近年は海外展開する和食レストランとの取引も増えたそうです。

「例えば、藍染めや家紋といった伝統に、現代の技法・素材を用いたり、国内外のクリエイターとコラボレーションをしたり、新しいエッセンスを取り入れることで、暖簾の可能性はまだまだ広がると思っています。きちんと仕切らない日本独特の空間の魅力やその考え方も、暖簾を通して伝えていきたいですね」。
中村さんの取り組みによって、日本の歴史や文化を背景に持つ暖簾は、現代の感性に寄り添う表現をまといながら、新たな価値を生み出しています。暖簾はこれからも、国内外へとその可能性を広げていきそうです。
