

FUTONで地球を救う! オーガニックコットンを武器に駆ける森製綿所副社長の情熱
2025.01.28
LIFE「綿(わた)というサステナブルな素材をきっかけに、他の環境のことにも目が向くようになったんです」と語るのは、100年以上続く森製綿所の副社長である森和太さん。江東区東陽町にある本社ショールームには、オーガニックコットンを使用した上質な布団を求め、世界中から顧客が訪れます。日本の伝統寝具である布団は、いまや“FUTON”として海外でも広く知られ、特に植物由来の原材料である綿でつくられることから、環境意識の高い欧米諸国を中心に人気が高まっているのです。森製綿所でも「Futon Tokyo」というブランド名で海外向けのオンラインショップなどを展開しています。
森さんがオーガニックコットンに出会ったのは、大学時代に読んだ、とある文章でした。綿の原料となる綿花は、そのほとんどが海外の大規模なプランテーションで栽培されていますが、そこにおける過酷な労働問題について書かれた英文に、森さんは衝撃を受けたと言います。そして、製綿所を営む家に生まれた立場から何かできないかと模索し、バックパッカーとして世界各地の綿花の産地を歩き回って、その現状に触れていったのです。
「ミャンマーやラオスなど現地の状況を実際この目で見ていたので、過酷な労働環境に対する後ろめたさのようなものは、ずっとありました。家業を手伝うようになり、一からオーガニックコットンを勉強して、各地からいろいろな綿を取り寄せては仕立ててみることを繰り返し、布団に最適な綿を探していきました。つい先日も、綿の輸入元のひとつであるインドに出張してきたのですが、現在では労働環境も改善されてきている様子を確認でき、改めてやりがいを感じました」

2024年11月に行われた「エシカルサミット2024」(一般社団法人日本エシカル推進協議会主催)で、森さんは「よりエシカルな伝統産業へ」と題したパネルディスカッションに登壇しました。エシカルとは倫理的・道徳的などの意味で、人や社会・環境に配慮した行動を示す言葉として、SDGsの観点からも広く使われています。それを伝統産業の中で推進する企業の代表として、森さんに声がかかったのだそうです。
森製綿所では、それまで捨てていた綿花の種を一般の人々に無償で配布して育ててもらう「リボコト(Re-born cotton)プロジェクト」を立ち上げるなど、綿という素材を身近に感じてもらう取り組みも始めています。消費者の原材料の質への意識の高まりからか、SNSで栽培希望者を募ったところ、あっという間に300人を超える人から応募がありました。こうした森さんのアイデアに他の従業員たちも積極的に賛同し、社内でエシカルへの意識が自然と高まっているそうです。

自家製の綿花を育てる取り組みも始めているものの、蒔いた種のうち発芽するのはわずか3%程度と育てるのが非常に難しく、広大な土地のない日本では製品化に至るまではハードルは高いそう。それもそのはず、布団1枚つくるためにはTシャツにして40枚分の綿が必要なのです。そのため実用化を目指すというより、自分たちの手で綿花を育てることを通して「ものづくり企業としての矜持」を社員と共有することに意義があると森さんは言います。
「ものづくりの企業として、現地の人が大切に栽培したオーガニック素材を、どうやって消費者のもとへ届けるか。その手渡すバトンを、もっといいバトンにしてから渡すのが作り手としての使命だと思っています。丁寧につくられた素材に見合わない加工をしたり、ちょっとしか(原材料に)含まれていないのにオーガニックを謳ったり、というようなことをやってはいけない。だから弊社では、オーガニックテキスタイルの世界基準である国際認証をとったうえで、そのルールを遵守し、トレーサビリティを実施しています」

森さんが素材を選びぬき、森製綿所で丁寧に製綿された綿は、布団はもちろんのこと、高座に上がる落語家や大相撲の幕内力士などが大きな座布団に使用されるだけでなく、国宝級の美術品を搬送する際の梱包資材としても使用されており、その品質の高さに対する評価がうかがえます。森さんは、この技術を“海”でも活用したいと目を輝かせます。
「海水温の上昇などが原因で、各地の海で『磯焼け』が問題になっています。実は私は、NPOで海の保全活動もしているのですが、海藻を増やすには、胞子が定着するための“布団”が必要なんです。そこに、弊社が持っている技術をうまく応用できないものかと、いろいろと試行錯誤をしているところです」
綿花のように軽やかに、世界中、そして海の中までも駆け巡る森さん。ひとつの素材から地球にやさしい活動が次々と広がっていく様子に、希望の光を感じました。