【若き担い手たち】藍染の現場を率いる村田染工(壺草苑)染師マネージャーの思い【若き担い手たち】藍染の現場を率いる村田染工(壺草苑)染師マネージャーの思い

【若き担い手たち】藍染の現場を率いる村田染工(壺草苑)染師マネージャーの思い

東京都青梅市に「藍染工房 壺草苑」を構える村田染工。ここで染師マネージャーとして6名の染師を率いるのが、入社9年目を迎える染師・亀井洋徳さんです。2025年5月、先輩職人の独立を機に、染色のプランニングからスタッフ管理、工程調整まで担うようになった亀井さんは、藍染の技術だけでなく、人を育てる立場ならではの難しさにも直面しました。現状に甘んじることなく、さらなる高みを目指す亀井さんに、仕事のやりがいや藍染の奥深い魅力についてうかがいました。



亀井さんが藍染の世界に足を踏み入れたのは、大学で食文化の一つとして学んだ「発酵」がきっかけでした。発酵というと一般的に酒や味噌を思い浮かべますが、藍染の原料である「すくも」もまた、長い時間をかけて微生物の力で発酵させることで作られています。このすくもに興味を持った亀井さんは、大学4年のときに徳島県の藍師・新居修さんのもとを訪ね、すくもづくりを体験しました。

【若き担い手たち】藍染の現場を率いる村田染工(壺草苑)染師マネージャーの思い
入社後、初めて藍の発酵を目にした亀井さんは、かめに浮かぶ「藍の華」と呼ばれる泡の塊が、次第に艶や弾力が増してくる姿に「(藍が)生きている」と感じたそうです。


実は約40年前、この新居さんのもとで修業していたのが、壺草苑の工房長・村田徳行さんでした。この不思議な縁がきっかけとなり、亀井さんは染色未経験ながら、大学卒業と同時に村田染工に入社することとなりました。

村田染工が運営する壺草苑は、江戸時代に全盛期を迎えた「天然藍灰汁醗酵建て(てんねんあいあくはっこうだて)」を守り続ける、国内でも数少ない工房です。化学染料では再現できない、透明感や深みを兼ね備えた美しい藍染を追求しています。

【若き担い手たち】藍染の現場を率いる村田染工(壺草苑)染師マネージャーの思い
「壺草苑」が使用する藍は100%天然素材。環境はもちろん、体にもやさしいため、職人たちは素手で液に触れ、指先の感覚で染まり具合を確かめています。


亀井さんは入社後、「ただ教えを待つだけでは成長できない」と、先輩職人たちに積極的に質問し、一つひとつの疑問を解消していきました。念願だったすくもを発酵させて染液を作る藍建てもすぐに手がけられるようになり、無地染めからグラデーション染めへと段階を踏みながら、着実に知識や技術を高めていきました。そして、現在は6名の染師たちをまとめるマネージャーとして、後輩の指導のみならず、人員やスケジュールの管理にも携わるなど、大きな成長を遂げています。

「ここでは一人ひとりが多くの仕事を抱えていますし、それぞれのかめで藍の発酵状態も異なるので、互いの仕事の状況や1日の流れを把握することがとても大事なんです。僕が入社したころの工房内では、職人の世界特有の張りつめた空気が漂っていましたが、今は誰もが気兼ねなく意見を交わせるような雰囲気作りを意識しています」。

その背景には、入社3年目に経験した苦い記憶がありました。あるブランドからオーダーされたグラデーション染めを任された亀井さんは、先輩とのコミュニケーション不足からムラを出してしまい、己の未熟さを痛感。二度と同じミスは繰り返さないと誓うとともに、後輩たちが同じ壁にぶつからないように、細やかな目配りと指導を心がけるようになりました。また、マネージャーとなった現在は、職人それぞれの適性を見極め、役割を振り分けることで、全体の精度を高めているそうです。

【若き担い手たち】藍染の現場を率いる村田染工(壺草苑)染師マネージャーの思い
現在在籍する社員13名のうち、20代から30代が11名を占める村田染工。亀井さんは後輩たちに積極的に話しかけ、染色技術に関する様々な疑問にていねいに答え、アドバイスをします。


そんな亀井さんに、4代目社長の村田敏行さんも大きな信頼を寄せています。かつての村田染工では、ある程度の経験を積んだ職人は独立を目指す傾向があり、組織の中核を担う中間層がいないという課題を抱えていました。また、独立した職人が万が一廃業してしまうと、せっかく培った伝統技術が途絶えてしまう。それらを危惧した村田社長は、組織として技術を守っていくことを決意。職人らが安心して長く働けるように待遇面を改善し、独立せずとも職人たちが新たな挑戦に取り組める環境を整えています。村田社長のこうした思いを受け、亀井さんの心境にも変化が生まれました。

「入社当時は僕も独立を考えていましたが、今はより多くの方に壺草苑の藍色の美しさを知ってもらうことが一番の目標になりました。作業効率を上げるために段取りを工夫するほか、かめの蓋をこまめに洗うなど、藍の発酵状態を安定させるために微生物にとって良いと思えることは少しずつ試しています」。

【若き担い手たち】藍染の現場を率いる村田染工(壺草苑)染師マネージャーの思い
壺草苑としてオリジナルの洋服やアクセサリーを提案する傍ら、2024年には藍染と草木染のファッションブランド、ŌME(オーメ)を立ち上げ、若い層を意識した新たな展開にも注力。


2年前には、草木染めラインの立ち上げメンバーに選ばれ、藍染とは異なる技法の難しさに直面。しかし、その経験が逆に藍染の楽しさや奥深さを再認識する貴重な機会になったといいます。

「僕らが守っているのは、江戸時代から続く技法で天然の素材で染める本物の藍染です。先人たちが積み上げてきた知恵と経験を継承し、この美しい色を生み出せていることは誇りであり、それが今の僕の仕事のやりがいになっています」。

村田染工では、亀井さんのような若い染師が中心となり、先人から受け継いだ技術を次世代へと受け継ぎながらも、木や石などの素材に藍染を施すなど、伝統を軸に新たな表現や可能性に挑み続けています。

【若き担い手たち】藍染の現場を率いる村田染工(壺草苑)染師マネージャーの思い
「今は目の前の仕事に一生懸命に取り組むだけ」と話す亀井さん。40年染め続けてもなお、「毎日が勉強」だと語る工房長の背中を追いながら、今日も藍染に向き合っています。




【若き担い手たち】は、東京に代々受け継がれてきた匠の技術やノウハウを未来に繋ぐ若き職人やスタッフに焦点を当て、彼らがこの道を選んだきっかけから日々の仕事内容、そして将来への展望を深掘りしていきます。